佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『不穏な眠り』(若竹七海・著/文春文庫)

『不穏な眠り』(若竹七海・著/文春文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

仕事はできるが不運すぎる女探偵・葉村晶。

吉祥寺のミステリ専門書店でアルバイトとして働きながら、〈白熊探偵社〉の調査員として働いている。「さよならの手口」(2014年4位)「静かな炎天」(2016年2位)、「錆びた滑車」(2019年3位)と「このミス」上位常連の人気ミステリシリーズ、文庫オリジナルの最新刊。


「水沫(みなわ)隠れの日々」

終活で蔵書の処分を頼んできた藤本サツキのもう一つの依頼は、死んだ親友の娘・田上遥香を刑務所から自分のところに連れてきてほしいということだった。刑務所からサツキの元に向かう道で、遥香は車に乗った男たちに拉致されてしまう。


「新春のラビリンス」(「呪いのC」改題)

晦日の夜、葉村は解体直前の〈呪いの幽霊ビル〉の警備をすることになった。ヒーターが壊れ、寒さの中一夜を明かした葉村は、女性事務員の公原から連絡が取れない男友達の行方を調べてほしいと頼まれる。


「逃げだした時刻表」

葉村の働くミステリ専門店でGWに〈鉄道ミステリフェア〉を開催することになった。展示の目玉として借りた弾痕のあるABC時刻表が盗難にあう。本の行方を追ううちに、互いを出し抜こうとするコレクター同士のトラブルや、過去の因縁まで絡んできて思わぬ展開に……。

「不穏な眠り」

亡くなった従妹から引き継いだ家にいつのまにか居座り、そこで死んでしまった宏香という女の知人を捜してほしいという依頼を受けた葉村。宏香を連れ込んだ今井という男の家を訪ねたところ、今井の妻に危うく殺されかける。今井は宏香の死後、家出していた。
解説・辻真先

TVドラマ化決定!ドラマ10「ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~」主演シシド・カフカ間宮祥太朗池田成志津田寛治中村梅雀2020年1月24日(金)スタート予定(連続7回)  

 

不穏な眠り (文春文庫)

不穏な眠り (文春文庫)

 

 

 

 葉村晶シリーズ最新刊である。これで葉村晶シリーズ全8冊をすべて読み切ったことになる。楽しい時間であった。

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  奥付を見ると本作は2019年12月10日に第一刷発売、10日後、12月20日には第二刷となっている。第一刷で何部刷ったかにもよるだろうが、わずか10日での増刷はすごく売れているということだろう。今日も本屋に立ち寄ったが、シリーズが平積みしてあった。NHKドラマ化というのはものすごい効果なのだな。

 上に紹介した出版社コメント ”「さよならの手口」(2014年4位)「静かな炎天」(2016年2位)、「錆びた滑車」(2019年3位)と「このミス」上位常連の人気ミステリシリーズ” にあるとおり、最近それなりに人気があり評価されているのだ。しかしあくまでミステリファンの評価であり、コンスタントに上位に食い込んでいるものの1位ではない。1位になれないとけなしているのではない。葉村晶シリーズはそうした作品なのだろうと言いたいのだ。このシリーズは読む人を選ぶ。ハードボイルドではあるが、シブくカッコイイ主人公ではない。四十代のおばさん探偵、しかも四十肩と膝に不調を抱えているのだ。テイストもほろ苦くなんとも言えない後味の悪さを持つ。まさに本書のタイトルにも使われた「不穏」という言葉があてはまる。正義が勝つかたちで謎が解けてスキッとしたいといった読者には敬遠されるだろう。おそらくミステリをひととおり読んできた人、ありきたりなものには飽きてしまった読者に支持される本なのだ。そうした人には吉祥寺にあるミステリ専門店〈MURDER BEAR BOOKSHOP〉の店員にして、書店に併設された〈白熊探偵社〉のただひとりの調査員という設定と、物語の端々に紹介される名作ミステリに関する蘊蓄はたまらないだろう。

 さて、五十代、六十代の葉村晶はどうしているのだろう。はたして若竹さんは、この後そうした葉村晶を書く気がおありになるのだろうか。気になるところである。