佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『墨の香』(梶よう子・著/幻冬舎時代小説文庫)

『墨の香』(梶よう子・著/幻冬舎時代小説文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

突然、理由もなく嫁ぎ先から離縁された女流書家の岡島雪江は心機一転、筆法指南所(書道教室)を始める。しかし大酒飲みの師匠・巻菱湖や、かまびすしい弟子の武家娘たち、奥右筆の弟・新之丞に振り回される日々。そんなある日、元夫の章一郎が「ある事件」に巻き込まれたことを知り―。江戸時代に生きる「書家」とその師弟愛を描いた、感動作。

墨の香 (幻冬舎時代小説文庫)

墨の香 (幻冬舎時代小説文庫)

 

  書には様々なことが表れる。自分の持つ性質、それを書いたときの心の在りようが表れるというのだ。また墨には五彩がある。焦墨、濃墨、中墨、淡墨、清墨。さらに、書は、紙の上下左右、いわゆる余白も含めて見る。それも美しくなければならない。知らなかったことが勉強できた。

 若い頃の私といえば、文字は記号であり読めれば用が足せるなどと生意気なことを言っていた。自分が悪筆であることへの言い訳でもあった。しかし、この歳になると文字の持つ表現力、味わいに心が動かされる。印刷物であっても昔ながらの活版印刷によるものと最近の印刷技術のものでは味わいが違うものである。まして手書きの文字にはそれぞれ個性があるのだ。

 本書は女流書家の眼をとおして、人としてかくあるべしという姿を描いている。読んでいて心が洗われる気がした。