佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『朝飯』(島崎藤村・著/青空文庫Kindle)

『朝飯』(島崎藤村・著/青空文庫Kindle)を読みました。1906年「芸苑」初出の短編です。青空文庫なのでKindleで無料で読めます。

 日本生命が発行している『経営情報』という広報誌に紫原明子さんのエッセイが掲載されており、そのエッセイのテーマが藤村の『朝飯』であった。たいへんすばらしいエッセイだったので、興味を引かれ読んでみた次第。

 あらすじはこうだ。

ある日、男の家に書生風の若者が訪ねてくる。長旅の途中、病を患って金が尽きてしまった。何も食べていないと哀れに金を乞う。男は何もしない者に金は渡せない。何でも良いから自分ができることはないかと尋ねると尺八なら少し手習いがあるという。ならば金をやるから安物で良いから尺八を買いなさい。それを吹いて金を稼ぎながら旅を続けるように。けっしてその金ですぐに飯屋に行ってはいけないと諭す。男は良い施しをしたと悦に入っていたが、男のところで働く女中の口から、その若者が一目散に飯屋に入ったところを見たと聞かされる。男は説教までした自分を自嘲する。

 金を与えた結果を知った男は、多少は落胆しただろうが、ことさら怒った様子もない。そうかそういうものだなと自嘲の笑いをうかべるのみである。そうしたねちっこくも堅苦しくもない心持ちが意外に爽快です。

 藤村は1872年生まれだから、この小説が書かれた頃は30代半ばだろう。その年齢にして人というものに対する深い洞察と理解があるとみえる。かなわないな。

 

朝飯

朝飯