佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『戦場のコックたち』(深緑野分:著/創元推理文庫)

『戦場のコックたち』(深緑野分:著/創元推理文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

生き残ったら、明日は何が食べたい?
1944年、若き合衆国コック兵が遭遇する、戦場の〝日常の謎
『ベルリンは晴れているか』の著者の初長編
直木賞本屋大賞候補作

 

 1944年6月6日、ノルマンディーが僕らの初陣だった。コックでも銃は持つが、主な武器はナイフとフライパンだ――料理人だった祖母の影響でコック兵となったティム。冷静沈着なリーダーのエド、陽気で気の置けないディエゴ、口の悪い衛生兵スパークなど、個性豊かな仲間たちとともに、過酷な戦場の片隅に小さな「謎」をみつけることを心の慰めとしていたが……『ベルリンは晴れているか』で話題の気鋭による初長編が待望の文庫化。直木賞本屋大賞候補作。

 

*第2位『このミステリーがすごい!2016年版』国内編ベスト10
*第2位「ミステリが読みたい!2016年版」国内篇
*第3位〈週刊文春〉2015年ミステリーベスト10/国内部門
*第154回直木賞候補

戦場のコックたち (創元推理文庫)

戦場のコックたち (創元推理文庫)

  • 作者:深緑 野分
  • 発売日: 2019/08/09
  • メディア: 文庫

 

 アメリカのごく普通の19歳の青年が軍役に志願しノルマンディー降下作戦から戦地に赴き、そこでの体験の中から正義とは何か、憎悪と信頼、あるいは尊敬、疑心など人間というもののむき出しの本質に触れていく。主人公の目を通じて幼い頃の祖母とのエピソード、戦場でのエピソードを語るなかで、著者は人間の尊厳という最も大切にすべきものを描きたかったのでは無いか。敵味方なんて状況が違えば簡単に入れ替わってしまう。味方に嫌なヤツがいるように、敵にも見上げたヤツはいる。そのような中、いかに正義や倫理に反していようと生き残ったものが勝つという戦争の現実を目の当たりにしてなお、人の尊厳を大切にし、優しい心と正気を失わず生きていこうとする姿が印象的である。

 老いた主人公が到達した境地が戦争の本質を突いている。「自分は微力すぎて、大きな流れに抗うことはできない。人間は忘れる生き物だ。やがては明らかな過ちさえ正当化する。誰かが勝てば誰かが負け、自由のために戦う者を、別の自由のために戦う者が潰し、そうして憎しみは連鎖していく。この世は白でも黒でもない。灰色の世界だ。」  

 戦争の現実を浮き彫りにしつつ、ミステリの要素を織り込み読者の心を惹きつける秀作。