『ステップ』(重松清:著/中公文庫)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
結婚三年目、三十歳という若さで、朋子は逝った。あまりにもあっけない別れ方だった―男手一つで娘・美紀を育てようと決めた「僕」。初登園から小学校卒業までの足取りを季節のうつろいとともに切り取る、「のこされた人たち」の成長の物語。
- 作者:重松 清
- 発売日: 2012/03/23
- メディア: 文庫
親にとって子どもは宝ものだ。親が子どもを育てる過程で、子どもの成長の時々刻々が思い出となりかけがえのない宝ものになる。その宝ものはたいていの場合、夫婦で共有するものだ。しかしもしそれができなかったとしたらどうだろう。子どもとの思い出を共有できなかったさみしさ、子どもの成長の責任を一身に背負った重圧、子どもが成長していく姿を見守るよろこびを自分だけが感じていることへの申し訳ないような気持ち、そうしたものが胸にせまって遣る瀬ない。しかしその遣る瀬ない気持ちは同時に温かく甘美なものでもある。なぜならそこに確かな幸せがあるから。その幸せのかたちは完璧なものではないかもしれない。でも、幸せのかたちはいろいろあって良い。かたちではなく深さなのだろう。その幸せを守ろうとするひたむきさなのだろう。手にした幸せは油断しているとするりと指の間からすりぬけてしまう。自分ひとりで得られるものではない。お互いが相手を思いやり大切にして初めてかたちになる奇蹟、それが幸せの本質ではないか。不器用だって、言葉足らずだって、幸せを求めるひたむきな気持ちがあれば、確かな幸せを手に入れられる。そう思いたい。
最後に本書344Pの一節を引いておく。
悲しみを胸に抱いたまま生きていくのは、決して悲しいことではない。そのひとがいないという寂しさを感じる瞬間は、そのひとのいない寂しさすら忘れてしまった瞬間よりも、ほんとうは幸せなのかもしれない。
優しさと幸せを求めるひたむきな気持ちがあれば、人は必ず幸せを手にすることができる。人生は素晴らしい。そう信じさせてくれる小説でした。
【追記】
映画「ステップ」は令和2年4月3日(金)に公開予定だったが、新型コロナウィルスの影響で延期され、現時点で公開時期が決まらないようだ。正直なところ、小説の映画化はたいてい失敗していると思う。しかし、本作は山田孝之が主演とのこと。彼ならきっとガッカリさせることはない。そう思っている。公開されたらすぐにも観に行こう。ただし、ひとりでこっそりと。映画を見終わった顔を知り合いに見せることなどできないから。ましてつれ合いに見せることなどもってのほかだ。
【追記その2】
主題歌は『在る』(秦基博)だということで聴いてみた。
悪くはないのだが私の好みとはちょっとずれている。
私は本を読むとき音楽を流している。たいていはプレイリストに登録したお気に入りの曲をランダム再生する。その中にまるで映画のサウンドトラックのように特に心にしみた曲があった。その4曲をYouTubeからここに引いておく。また日記を読み返したときに、これらの曲とともにこの小説のことを、これから観る映画のことを思い出したいから。
まずはサンボマスターの『ラブソング』。
同じ曲でも歌い手が変わるとぐっと雰囲気も変わる。こんなのもイイ。
【モノドラマ】内山愛『ラブソング/サンボマスター』sung by 宇野悠人
サンボマスターには『僕の好きな君に』という曲もあって、それもなかなか良い感じだ。しかしこれはYouTubeを探しても公開されているMVが無い。
映画のバックに流すならもう少し明るさがあっても良いかもしれない。次、二曲目と三曲目はThe Band Perryの曲。ひとつは ”If I Die Young” 。曲名自体も物語の設定に合っている。歌詞の意味は良くわからないけれど、抒情的な場面でバックに流すと幸福感があってなかなか良いのではないかと思います。もう一曲は "Mother Like Mine" 。これもなんともいえず幸せな気分になる曲だ。
The Band Perry - If I Die Young (Official Video)
The Band Perry - Mother Like Mine (Ram Country On Yahoo Music)
最後にもう一曲。The Waterboys の曲で ”Too Close To Heaven”。スコットランドの吟遊詩人Mike Scott の思い入れたっぷりの歌いっぷりがグッとくる。特にこのMVの画面終盤(8:50あたりから)に流れているビデオが泣かせるのだ。障碍を持った父とその娘のすれ違い、娘を思う父の気持ちがひしひしと画面から伝わってくる。曖昧な記憶だがたしかタイの保険会社のCMに作成された映像だったと思う。しかしこれは重すぎるか。Mike Scott の感情移入過多が映画を邪魔しそうですね。故にこれは却下。それにしても何度観ても泣いてしまうシーンです。