佐々陽太朗の日記

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『犬侍見参 北前船用心棒◆赤穂ノ湊』(赤神諒:著/小学館時代小説文庫)

『犬侍見参 北前船用心棒◆赤穂ノ湊』(赤神諒:著/小学館時代小説文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

元禄十四年初夏、犬侍・千日前伊十郎と相棒の白い柴犬を乗せ、蓬莱丸は播州赤穂に向け出航した。生類憐みの令のもと、犬を従える犬侍は最強の用心棒だ。塩受け取りのため、刃傷事件で騒然とする赤穂藩に先乗りした蓬莱丸の炊・権左と伊十郎は、筆頭家老・大石内蔵助から、赤穂藩改易は犬公方・綱吉を操る犬侍の仕業だと聞かされる。塩受け渡しの当日、塩田の浜に甲斐犬を使う犬侍・黒虎毛が立ち塞がる。身構える柴犬シロ。得意の石つぶてを握りしめる権左。ついに、伊十郎の龍王剣音無しの秘太刀が虚空に舞う。超大型新人、いよいよ書き下ろし時代小説に参戦!

 

 ワクワクしています、今、私。新しい赤穂浪士、新しい忠臣蔵の物語が始まりそうです。これまで、映画で、ドラマで、演劇で、講談で数々見聞きしてきた忠臣蔵とは違う物語が楽しめそうです。

 本書は知人・I氏が私に推奨して下さったものです。私はI氏のお人柄を私は良く存じており、そのご推奨を一毫も疑うものではありません。そのうえ本書の帯には「今村翔吾さん推薦!!」と大きく書いてあるのです。私、今村氏の「羽州ぼろ鳶組」シリーズに嵌まって既刊本十巻をすべて読んでおります。次巻の発刊を今か今かと待ちわびているのです。その今村氏が推薦なさっているのです。これこそ御墨付きというものでありましょう。

 ――― 以下、ネタバレ注意 ―――

 時は元禄14年3月14日(1701年4月21日)、浅野内匠頭長矩が、江戸城松之大廊下で、吉良上野介義央に斬りかかった所謂「刃傷松之廊下」のその後が物語の舞台である。時の将軍は第五代将軍徳川綱吉。悪名高い犬公方である。幕府は浅野内匠頭に即日切腹を言いつけ、播州赤穂浅野家は改易、赤穂城も幕府に明け渡すよう命じた。それに対し吉良には咎めはなかった。あまりにも有名な忠臣蔵の序章。

 史実として確認されていること、フィクションかもしれないが赤穂浪士の物語として語り継がれていることを織り交ぜながら、新しい創作を加えて全く新しい時代劇を展開しようとしている。謎を秘め魅力的な登場人物、読者の興味を引くいくつかのエピソード、随所にちりばめられた伏線が今後どのように奇想天外な物語を紡いでいくのか、ワクワクさせてくれる。早く次巻を読みたい。

蟷螂の 尋常に死ぬ 枯野かな <其角>

  芭蕉の一番弟子、宝井其角の句がキーワードとなる大野九郎兵衛の人物像は、これまで定説の如く刷り込まれてきたものを全く覆す。おそらくこうした驚きはこれから何度も繰り返されるに違いない。

 惜しむらくは剣劇の冴え。このあたりは今後主人公が剣豪として成長するにつれ作者の筆も冴え渡ってくるのではないかと期待している。