佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『氷と蜜』(佐久そるん:著/小学館文庫)

『氷と蜜』(佐久そるん:著/小学館文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

大学生の陶子は、亡き母と一度だけ食した幻のかき氷「日進月歩」を捜していた。羽根のように軽く、艶やかなシロップをまとった“究極の味”との再会は、三年を費やしても叶わず、氷捜しの相棒だった恋人にもフラれてしまう。喫茶店を営む父は、情熱を失った陶子を案じ、かき氷のコンテストに出ると言い出した。インカレサークル“関西削り氷研究会”が企画するコンテストは奈良で行われる。父と出場することになった陶子は、かき氷激戦区大阪の名店を食べ歩き、「日進月歩」を超える味を手に入れようとする…。読めば必ずかき氷が食べたくなる青春エンタメ!

 

氷と蜜 (小学館文庫)

氷と蜜 (小学館文庫)

 

 

 おいしい小説文庫OPENラインナップの一冊。

 最近、かき氷がブームになっており、そのかき氷が私のような年寄りが知っているものとは全くレベルの違うおいしさなのだということは噂で聞いてはいた。しかし世の中にゴーラーと呼ばれるかき氷愛好家で全国有名店を食べ歩く人がたくさんいることまでは知らなかった。かき氷愛好家がゴーラーであるなら、私のように居酒屋愛好家はザカラーとでも呼ぶのだろうか。そのあたりどうでも良いことだが気になる。

 私にとって最高のかき氷はかれこれ40年前に通っていた大学のすぐ近くの喫茶店「雅」で食べたものである。暑い夏、部活が終わり、喉がカラカラ、身体が熱くほてっている状態で喫茶店に駆け込んで食べたかき氷はうまかった。特大のガラス鉢に山盛りにキラキラ輝く氷、氷の上には小豆あんと真っ赤なさくらんぼ、抹茶シロップと練乳がたっぷりかかったものであった。これを慌ててワシワシワシと食べていくと、その冷たさに必ずこめかみの辺りがキーンと痛くなったものだ。食べ終える頃には、汗で水分を失っていた身体は潤いと平温を取り戻し、なんとも言えない幸福感が身体に満ち満ちたものである。

 この物語は大昔にそんな経験をしたジジイには全く別世界の話だ。ほぉ~~、へぇ~~、などと言葉にならない感嘆を口にしながら読み終えた。それほどうまいものなら、食べてみたいと思わないでもない。