佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『花火』(太宰治:著/青空文庫)

2020/09/30

『花火』(太宰治:著/青空文庫)を読みました。amazon kindle版です。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

 「無頼派」「新戯作派」の破滅型作家を代表する昭和初期の小説家、太宰治の同人時代の短編。初出は「弘高新聞」[1929(昭和4)年]。メーデー日和のからっと晴れた日、花火を合図に広場へと集まることになっていると告げる「僕」が、花火にまつわる思い出を語る話。作品の前後に記される労働運動や兄の獣欲の犠牲となる小間使いには、階級意識に根付いた告発の姿勢がある。

 

花火

花火

 

 

  なぜ今、太宰の『花火』を読む気になったかというと、「好きな物語と出会えるサイト tree」というサイトで森見登美彦氏の『花火』という短編を読んだからである。同名の『花火』つながりということです。

tree-novel.com

 もう一つ、今日読み終えた小説『あの本は読まれているか』(ラーラ・プレスコット:著)がソ連によって発禁とされた『ドクトル・ジヴァゴ』を扱っていたということがある。発禁といえば、太宰の『花火』も戦時下にあって禁書とされていたよなぁと思い出したわけです。

 太宰の『花火』は、1942(昭和17)年10月1日『文芸』10巻10号に掲載されたが10月8日に全文削除されたようだ。その発禁理由は「登場人物悉ク異状性格ノ所有者」であり、「全般的ニ考察シテ一般家庭人ニ対シ悪影響アルノミナラズ、不快極マルモノト認メラルル」というもの。しかし、本書を読んでみると確かに”善良なる風俗を害する”要素があるものの、実際には「共産主義の煽動を含んでいる」と見なされた可能性があると思う。

 正直なところ、太宰の『花火』はわざわざ繰り返し読むほどの小説ではない。と私は思う。『花火』は東京にある高名な画家の家庭(画家の父、母、兄、妹の4人家族)に起こった殺人事件が描かれている。息子殺しである。兄はチベットに行って事業を起こしたいという夢を持っていたが、父からそれを許されず学校に通って医者になるよう命令される。以前から兄と父は以前から衝突しており、兄の家庭内暴力という状況にもある。自分の希望がかなえられない兄は放蕩するようになる。悪い仲間とつき合い、家から金を持ち出し遊ぶ。妹の大切な着物や、父の画をお金にかえる。女中を孕ませ、不実なことを言う。左翼の活動家とのつきあいもある。息子の悪行に疲れ果てた父は、月夜、井の頭公園の池に浮かぶボートに一緒に乗って・・・というあらすじである。実に救いようのない話で、こんなものを読むと我が精神に”悪影響アルノミナラズ、不快極マリナイ”のである。発禁処分を下した当局と同じ見解なのである。

 しかし、たまにはこんな小説も読んで、インテリ老人を気取ってもみたいのである。ことにある小説からインスピレーションを得て、別の小説を読むといった風に小説から小説へとネットサーフィンのように読んでいくのは楽しい。思わぬ小説との出会いはスリリングでもある。

 あ、そうそう。森見登美彦氏の『花火』はなかなか良かったですよ。ぜひ、ご一読あれ。

 それから、奇遇なことに、この日の夜出席した飲み会の乾杯酒が「花火」であった。偶然にしても出来すぎではないだろうか。しかしこうしたことはよくある。巡り合わせということであろう。

f:id:Jhon_Wells:20201001183516j:plain

風の森 -みんなで花火を打ち上げるお酒-


油長酒造OnLine花火大会