まずは出版社の紹介文を引きます。
井伏鱒二と鰻、埴谷雄高とトンカツ、泉鏡花とウドン…碩学が書き下ろす、知的興趣あふれた「美味礼賛」。
【目次】
1 鰻丼の決闘
2 散らし鮨と涙
3 甘い豆と苦い豆腐
4 鮫と鯨の干物
5 『死霊』の鼻づまり
6 獺の涎を垂らす伊勢饂飩
7 『吉野葛』の復活と水
8 蛸、鮎の腐れ鮓、最後にオムレツ
7年ばかり前に『作家の食卓』という本を読んだ。
作家と言えば食事と酒だ。もちろん例外がないわけではないが、大方の作家のエピソードには食へのこだわりがある。そうした作家に倣って食してみるとなるほどうまい。故に『文豪の食卓』などという本に出会うと必ず読んでしまう。そして作家が足繁く通ったという店のことが書いてあると、ググってみる。今も実在するとなるとGoogleマップに☆印を付ける。いつの日か近くに行くことがあれば店の暖簾をくぐろう、同じ物を食おう、酒も飲もうということになる。
本書にもそうした文豪ゆかりの店が紹介されている。井伏鱒二の好んだ鰻なら荻窪の『東屋』『安斎』『川勢』、西荻窪の『田川』、新中野の『小満津』、永井龍男が好んだ酢と塩のみで味付けしたお稲荷さんは北鎌倉『光泉』、植谷雄高のトンカツは上野広小路の『本家ぽんた』、泉鏡花の伊勢うどん『喜八屋』とどんどん地図上の☆が増えていく。他には京都三十三間堂の向かい『わらじ屋』の鰻ぞうすい、先斗町のおばんざい『ますだ』をチェック。いや、『ますだ』は既に2度訪れている。残念だったのは小林秀雄が足繁く通ったという鎌倉小町通りの鮨屋『大繁』。Googleマップの検索では「閉業」と出ている。大岡昇平と並んで飲んだカウンターに腰掛けて、私も酒を飲みたかった。この店で岐阜から取り寄せているという酒の名は書いていなかった。おそらく「三千盛」であったのではないか。永井龍男が愛飲した酒と何かで読んだ。