佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『烏に単は似合わない』(阿部智里:著/文春文庫)

『烏に単は似合わない』(阿部智里:著/文春文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

人間の代わりに「八咫烏」の一族が支配する世界「山内」で、世継ぎである若宮の后選びが始まった。朝廷で激しく権力を争う大貴族四家から遣わされた四人の后候補。春夏秋冬を司るかのようにそれぞれ魅力的な姫君たちが、思惑を秘め后の座を競う中、様々な事件が起こり…。

史上最年少松本清張賞受賞作。

 

 

 なんと美しい世界か。場面場面に鮮やかな色が溢れんばかりである。

 たとえば濃淡のある蘇芳の赤の衣装が三枚、五枚と襟をずらして重ねられた衣装のグラデーションが目に浮かぶようだ。艶やかな装束だけでなく、たきしめた香、衣擦れの音さえ聞こえてきそうではないか。雅やかな色と香をこれほどリアルに頭に思い描くことができた小説を私は知らない。蠟梅の黄と朝露に輝く真白の萩は白珠の悲恋の色として私の記憶に残る。

 女が男手にたおられるのを待つ花であった時代を舞台にしたファンタジーに酔い痴れた私は叙述のトリックに見事にしてやられたり。