2020/12/25
『京都四条 月岡サヨの小鍋茶屋』(柏井壽:著/イラスト:卯月みゆき/講談社)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
〈ドラマ化『鴨川食堂』の人気作家、初めての幕末時代小説〉
「いやもうとにかく面白い、そして何より旨そうだ! 幕末の京を舞台に偉人怪人相手に繰り広げられるサヨの絶品料理。さすがは京都の名物グルマン、調理の細部に至るまで描写と蘊蓄が完璧だ。料理人必読」【13年連続ミシュラン三ッ星獲得】日本料理かんだ・神田裕行氏推薦!
頃は幕末、清水寺にほど近い京都四条。「小鍋茶屋」は、近江草津出身の月岡サヨがひとりで切り盛りする料理屋。縁あって訪れる客とサヨが料理をとおして心を通わせる。サムライの江戸時代からハイカラな近代へと移ろう時代、つかの間の安らぎを得た志士たちはサヨに何を語るのか? 風情漂う京の街で、今夜も美味しい料理を求めて幕末人が集う。
幕末の京都、料理に秀でた才を持つ月岡サヨが妙見さんのご加護を受け、ただ独りで昼間はおにぎり屋、夜は小鍋茶屋を切り盛りする物語。サヨは未だ十代後半の少女である。客を迎えるのは予約のみ、それも一夜に一組のみである。その客がどんな人でどんなものを好みそうか、どうしたら満足してもらえるかにサヨは心を砕く。その食に対する一途な姿勢、そらもう読者はそんなサヨを応援せずにはいられません。
店に来た客はどうやら我々がよく知っている志士とそのゆかりの人。己が命を賭してもと覚悟を決めた志士がサヨが心を込めた料理に舌鼓を打つ。その刹那はあるいは安らぎであり、あるいは満を持すひとときかも知れない。サヨが積み重ねた研鑽と技量、そして何よりも客をもてなす心が志士たちの心に何らかの変化をもたらしたとしたら、それは歴史を作ったということかも知れない。続編においてどんな人物が登場するのか、物語がどのような展開を見せるのか楽しみである。
作者は京都案内のオーソリティーにして、おいしいものを文章に描く手練れである柏井壽氏。本の表紙イラストは『みをつくし料理帖』(高田郁:著)シリーズの装画を担当された卯月みゆき氏という最強タッグです。
作中、心に残る言葉があったので忘れないように記しておく。
美しいものは必ず美味しい。美味しいものは必ず美しい。(P202)
作者の幾多の経験から来る帰納的推論だろう。
もうひとつ、
「男はんらは頭で考えて、知識で動かはるさかい、諍いになるんやないかと思います。何がどうあっても、みかどさんをだいじにせんとあかんて思うてますけど、そのために殺し合いせんならんのは、ホンマに哀しいことどす」
正義を振りかざすことの浅薄さ危うさを考えさせられました。