佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『京都スタアホテル』(柏井壽:著/小学館おいしい小説文庫)

2021/01/14

『京都スタアホテル』(柏井壽:著/小学館おいしい小説文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

創業・明治三十年。老舗ホテル「京都スタアホテル」の自慢はフレンチから鮨まで、全部で十二もある多彩なレストランの数々。そんなホテルで、レストランバーの支配人を務める北大路直哉は、店を切り盛りする一流シェフや板前たちとともに、今宵も様々な迷いを抱えるお客様たちを出迎える―。仕事に暮らしと、すれ違う夫婦が割烹で頼んだ、和の牛カツレツ。結婚披露宴前夜、二人で過ごす母と娘が亡き父に贈る思い出のエビドリア…おいしい「食」で、心が再び輝き出す。『極みの京都』『鴨川食堂』でおなじみ、京都を知り尽くした著者が描くハートフルストーリー。

 

京都スタアホテル (小学館文庫)

京都スタアホテル (小学館文庫)

  • 作者:壽, 柏井
  • 発売日: 2020/12/08
  • メディア: 文庫
 

 

 

 食をテーマにした小説の手練れ、柏井壽氏の新しいシリーズ。舞台はやはり京都。それも明治時代から続く老舗ホテル。それも館内に和洋中各種12カ所の食事処を取りそろえているとなると、全国の宿を泊まり歩いていらっしゃる柏井氏にとって小説の題材は数多。抽斗はいくらでも持っていらっしゃることだろう。

 第一話は京料理『禊川茶寮』。京都にお住まいの柏井氏として王道の初手。将棋で言えば「7六歩」といったところ。加能蟹、河豚、伊勢エビという豪華食材も垂涎ものだが、伊勢エビは御飯ものに、それもピラフというサプライズ。ちょっとした変化球がうれしい。それも「よろしければバー・アンカーシップで」という心遣いがイイ。あたかも自分がもてなされているように嬉しかった。

 第二話は鮨『綾錦』。こいしちゃん登場のサプライズ。けっして”No"と言わない姿勢、それこそ一流の仕事です。

 第三話は中華『白蓮』。本書に収められた五話の中でいちばん好み。親子の慈しみに書店愛まで加わればまさに私のハートのど真ん中を打ち抜きます。

 第四話は割烹『風花』。客とのやりとりの中で素材、料理、アレンジを選ぶ若手料理人の姿がカッコイイ。割烹はかくあるべし。

 第五話はフレンチ『アクア』。娘を立派に育てた母のまごころが胸にせまる。料理の主題に「ドリア」を起用したのは、ひょっとして横浜の老舗『ホテルニューグランド』のものをイメージされたか。

 全般を通じて感じたこと。それは「料理も仕事も人生も、大切なことはただひとつ。相手を思いやる心。それにつきる」ということ。続編を楽しみに待つ。