佐々陽太朗の日記

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『アメリカ民主党の崩壊 2001 - 2020』(渡辺惣樹:著/PHP研究所)

2021/01/21

アメリカ民主党の崩壊 2001 - 2020』(渡辺惣樹:著/PHP研究所)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

 アメリカ大統領選挙(2020年11月3日)が近づいてきた。「ウクライナ疑惑」で窮地に立たされているかのように見えるドナルド・トランプ大統領だが、日米のメディアとも、アメリカの真の姿を伝えていない。トランプ大統領の人気は依然として高く、非白人からも支持を集めている。他方、第二次大戦後になって「弱者のための政党」に変身したアメリカ民主党は激しく左傾化し、いまや分解(自己溶解)の危機にある。

 本書は、2020年のアメリカ大統領選挙の観戦マニュアルであるが、その後に訪れるであろうアメリカの政治風土の変質も予言する。アメリカの政治状況は、日本語に翻訳された昔ながらの二次加工情報だけで理解することはできない。日々激変する生の政治風景を見ながら、同時に、「コンドラチェフの波」(大きなうねり)も押さえることが必要だ。

 2016年の大統領選でトランプ大統領誕生を予言した著者による渾身のレポート。誰も語らなかった世界激変の真相が明らかになる!

 

アメリカ民主党の崩壊2001-2020

アメリカ民主党の崩壊2001-2020

  • 作者:渡辺 惣樹
  • 発売日: 2019/12/24
  • メディア: 単行本
 

 

 

 本書が書かれたのは2019年の暮れのこと。そして本書が予想した2020年11月アメリカ大統領選挙の勝者はトランプ、つまりアメリカ民主党の敗北であった。しかし、本書を読み終えた今、トランプが敗退しバイデンが勝ったという結果を我々は知っている。トランプが主張するように選挙に不正があったかどうかはともかく、新しい大統領にバイデンが就任した。それは確定した歴史だ。

 それが分かっていながらトランプ勝利を予言した本書を読むことに意味はあるのだろうか。そうした疑問は当然にある。しかし民主党が政権を握った今だからこそ、その正体を知っておく必要があるだろう。そしてその方法はアメリカのメディア、日本のメディアの報道では殆ど知らされることがない事実を確認していくことでなければならない。なぜならばアメリカにおいてもメディア報道にはバイアスがかかっているうえ、それを日本で伝えるメディアはさらにバイアスをかけて報道するからである。そのことは4年前のアメリカ大統領選挙での報道を見れば明らかである。4年前、日本の国民の多くは何故ヒラリーがトランプに敗れたのかが分からずポカンとした。私もその一人であった。なぜならアメリカメディアの多くがトランプについて「反知性」「人種差別主義者」「ポピュリスト」「女性差別主義者」「保護貿易主義者」などというレッテルを貼り、日本のメディアはさらに比較的少ないトランプ寄りの報道は無視して、トランプに批判的な報道のみを伝えたからだ。真実を知らされていない日本人の多くには、政治的に正しく、支持者も多いはずのヒラリーが何故トランプに負けたのかがどうしても分からなかった。後で考えるに原因は「偏った情報」にあったことは明らかで、それを元にした分析からは間違った結論しか導き出せなかったということだろう。

 確かにトランプの行動や発言には問題があるように思う。もう少し品のある態度や発言ができないものかとも思う。行儀が悪すぎるのだ。しかし、本書を読んだ今、正直なところ私にはトランプの方がバイデンよりもまだ「まし」だと思える。こう言うと進歩的知識人(気取り)の輩から「バカ」「うすのろ」との誹りを受けるかもしれない。トランプを応援したアメリカの保守系白人中間層が受けた誹りと同じように。しかし私が常に大切にしている判断基準に従えば、たとえ多くのマスメディアがトランプよりバイデンを支持したとしても、知識人とされている人の多くがバイデン支持を表明したとしても、やはりトランプ(の方がまし)という結論に達する。私の判断基準は「言っていることは立前であって、やっていることが本音である」ということ。その基準に照らせば、一見良い人物に見えるバイデンよりも、たとえ批判にさらされてもやるべきことを勇気を持ってやろうとするトランプの方が「まし」に見えてしまうのだ。たとえばトランプは中国に対し「世界のルールに従った行動を取れ。さもなくば制裁を科す」というはっきりした態度を取ったということ。これは公正な貿易、知的財産、チベット・ウィグル・香港など人権問題、台湾・尖閣を含めた東シナ海の覇権といったすべての問題について言えること。この点は前オバマ政権(バイデンは副大統領であった)は口先だけで腰砕けでなかったか。

 ではバイデンは何をしたか(あるいはしなかったか)。2013年中国政府が尖閣諸島を含む「東シナ海防空識別区」を一方的に設定し、この空域を飛行する航空機に対し中国国防部の定める規則を強制し、これに従わない場合は中国軍による防御的緊急措置を取ると発表した。中国のそうした行動に対して釘を刺すために北京に向かったのがバイデンである。バイデンが中国に対して行ったのは防空識別問題について不測の事態が起きないよう十分な注意を促しただけで、むしろ民間機については中国の規制に従うことを容認したのだ。この訪中にはおまけがある。バイデンはこの訪中に次男のハンターを伴っていた。バイデン帰国後すぐにハンター・バイデンが経営する投資ファンド会社(ローズモント・セネカ・パートナーズ)と中国銀行が新しい投資会社を設立することが分かった。つまり外交を金儲けに使ったという疑惑である。ハンター・バイデンについては2014年からウクライナ天然ガス会社であるブリスマ・ホールディングスの取締役に就任し得た報酬に関する脱税疑惑もある。こうしたバイデンに不都合な疑惑は不思議なことにメディアから黙殺された。メディアの多くにトランプを叩き、バイデンを支持する構図が出来上がっていたとみえる。

 先ほど、真夜中だったが米大統領就任式のTV中継を視た。穏当な演説であった。私のバイデン政権に対する悲観的な見方がハズレて欲しい、バイデンにがんばって欲しいと本心から願う。しかし、やはりそれは難しいのではないかと悲観してしまう。それはバイデンが民主党だからだ。民主党は「弱者のための政党」を標榜している。「弱者救済」という言葉は美しい。そして弱者救済が政治の大きな役割であることは間違いない。政治的に正しいしメディアも教育者もさかんにその重要性を説く。しかし「弱者のための政党」が必要とされる(票を獲得する)ためには「弱者が常に存在しなくてはならない」という矛盾を内包する。この指摘は著者・渡辺氏のものだがまことに慧眼と言わねばならないだろう。弱者を「票のなる木」にするために、弱者が不当に扱われていると強く認識させ強者への怒りを煽る必要がある。その怒りは黒人、移民、女性、LGBT、過激な左派などの持つ不満を増幅させたものだ。社会はこうした相対的弱者の問題に少しずつ対処し、公正さを獲得する方向にある。しかし票に繋げるまで持って行くためにはその程度では足りず、いきおい保守的なものに対する対立を煽り、いがみ合い、非妥協的な態度をとりがちである。その意味で、社会的分断を生じさせたのは実はトランプではなく民主党の党勢拡大戦略なのではないかとも思える。バイデンは穏健中道の立ち位置のようだが、はたしてそのスタンスを維持できるかどうか。サンダースを支持する党内左派への配慮も必要になろう。ただでさえ国民の半数はトランプ支持、そのうえ急進的進歩派、左派への配慮が必要となれば身動きが取れないかもしれない。バイデンは今日の就任演説で「民主主義が勝利した。分断は深く現実のものだが、国民の結束に全身全霊を尽くす」と言った。確かに彼の立ち位置は穏健中道だろうが、はたして国民を結束させることができるだろうか。文化左翼と手を握った民主党にそれができるとはどうしても思えない。

 とまあ、本書を読んでつらつら思ったことを書き連ねてしまった。これとて本書に書かれたことが正しいとしてのこと。そのあたりは、別の立場の意見もよくよく見聞する必要があるとは思っている。繰り返しになるが、私の予想に反して、バイデンの米大統領就任がアメリカの抱える問題、ひいてはますます混迷の度合いを深める国際問題の解決に資することを望む。とりわけ日本にとって好影響をもたらさんことを。