佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『海潮音』(訳:上田敏/新潮文庫)

2021/04/04

海潮音』(訳:上田敏新潮文庫)を読みました。以前に読んだことがあるはずだが、それはいつのことだったか思い出せないほど昔のこと。私にとって『海潮音』といえばブラウニングの『春の朝(あした)』だ。「時は春、日は朝(あした)、朝(あした)は七時、・・・」というあれである。毎年、うららかな季節になると思い起こす詩だ。他にどんな詩があったか思い出せない。図書館で借りて読んでみることにした。ひととおり目を通した。「秋の日の ヴィオロンの ためいきの 身にしみて ひたぶるに うら悲し・・・」(『落葉』ポオル・ヴェルレエヌ)や「山のあなたの空遠く ”幸”住むと人のいふ。・・・」(『山のあなた』カアル・ブッセ)もこの訳詩集に収められていたことに気づいた。すごい仕事だなぁ。原語を理解する能力。そしてそれを超える日本語能力。センス、テクニック。あらゆる事に秀でた者が、ひたむきに綿密な仕事で行った成果がこの訳詩集だろう。「すごい」のひと言に尽きる。

 今回、すごく良い詩に出会った。初めて読んだように感じるのは、おそらく以前読んだときにはほとんど気を留めなかったに違いない一篇だ。ガブリオレ・ダンヌンチオの『声曲(もののね)』です。「われはきく、よもすがら、わが胸の上に、君眠る時、吾は聴く、・・・・」 人を想い、人を愛するひたむきさと孤独をこれほど表した詩が他にあるだろうか。原文は知らないが、おそらくこの訳詩は原文を超えているのではないか。

 ともあれやはりこの詩集の中の一番はやはりブラウニングの『春の朝』でした。どのような春にも、この詩は自然の情景と共に私に寄り添ってくる。それは私に喜びと開放感をもたらしてくれる。そのことを生まれて62回目の春に確認した次第。

 

海潮音―上田敏訳詩集 (新潮文庫)

海潮音―上田敏訳詩集 (新潮文庫)

  • 発売日: 1952/12/02
  • メディア: 文庫