佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『任侠浴場』(今野敏:著/中公文庫)

2021/04/25

『任侠浴場』(今野敏:著/中公文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。それをいつも持ち込む阿岐本の兄弟分・永神が訪ねてきたため、嫌な予感におそわれる日村。案の定、潰れかけた銭湯の債務処理の話を聞いていたはずが、いつのまにか経営再建を手伝う流れに……。乗り気な組員たちとは反対に、日村は頭を抱える。この時代に銭湯なんて建て直せるのか? そして阿岐本組は銭湯の勉強と福利厚生(?)を兼ねてなぜか道後温泉へ――。 お待たせしました! お馴染み「任侠」シリーズ第4弾、文庫化。

 

任侠浴場 (中公文庫 こ 40-38)

任侠浴場 (中公文庫 こ 40-38)

  • 作者:今野 敏
  • 発売日: 2021/02/25
  • メディア: 文庫
 

 

 

 待ってました! 任侠シリーズ第四弾文庫化。シリーズ化される前の第一作を『とせい』(これは後に改題され任侠シリーズ第一弾『任侠書房』となった)で読んだのが2015年11月3日の事、その後すぐ11月20日にシリーズ第二弾『任侠学園』を、そして11月25日にシリーズ第三弾『任侠病院』を読んだのだった。『とせい(任侠書房)』でその面白さに嵌まってしまい立て続けに読んだ。あまりに面白いので、その年の暮れにはこのシリーズのスピンオフ小説『マル暴甘糟』まで読んだのであった。それから5年以上待った本作。まさに So long. である。

 待った甲斐がありました。腹が据わっている割に気苦労の絶えない代貸・日村と丸顔で童顔のマル暴刑事・甘糟のキャラが立っているのは相変わらずだ。キャラと言えば組事務所に遊びに来る女子高生・香苗もイイ。すごくイイ。

 このシリーズはひと言で云うとヤクザのお仕事小説です。ヤクザが奮闘し活躍するユーモア小説でもあります。しかしヤクザだからといって侮ってはいけません。彼らの行動様式、彼らが吐露する心のうちは大新聞の論説なんぞを読むよりもずっと心に響きます。せっかくなのでグッときた一節を何カ所か引いておきます。

「利益を追求するために、情けもへったくれもなく、余計なものを切り捨てて行く。それがビジネスだと、いつの間にか思いこまされてしまっているような気がします。でも、それはおそらくアメリカのビジネスの真似をしただけのことでしょう。日本の商いというのはもっと血の通ったものだったはずです」

「そうは言っても、今の日本はすっかりそうなっちまっているんだからしょうがねえでしょう」

「ひたすら利益だけを追求した結果、アメリカはひどいありさまです。資本と技術が乖離してしまったのです。資本はただ会社の売り買いだけで儲け、技術はベンチャー企業が担うしかなくなりました」

                   (本書P40より)

 

「そりゃあ、生きていくにゃあ、義理も大切だ。人情も大切だし、金だって重要だ。だがな、道理を忘れちゃ、生きていく意味がねえんだよ」

                    (本書P54より)

 

「それじゃめりはりがつかねえよ」

「めりはりですか」

「そう。めりはりがねえから、今の日本人はパワーがねえんだよ。ちゃんと休んでねえから、いざというときの踏ん張りが利かねえ。昔の日本人ってのは、粘りがあったし、パワーもあった」

「はあ・・・・・・」

「馬車馬みたいに働くってえ言葉があるが、昔の日本人は、まさにそういう感じだったよ。それが日本の経済を支えていたんじゃねえかと、俺は思っている」

「昨今は、働き過ぎだからって、役所が勤務時間を制限するんだそうですね」

「日本はいつからそんな情けねえ国になったのかねえ・・・・・・。勢いがなくなった国は、いずれ滅びるよ」

「国が滅びるってのは大げさでしょう」

「どうかね。やる気も誇りもなくした国は、滅びたも同然だよ」

                    (本書P166より

 

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