佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『あの頃、君を追いかけた』(九把刀:著/阿井幸作・泉京鹿:訳/講談社文庫)

2021/05/10

『あの頃、君を追いかけた』(九把刀:著/阿井幸作・泉京鹿:訳/講談社文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

「あなたって本当に幼稚」。優等生だし可愛いし、だけどクールな君が、ある日、後ろの席にやってきた。勉強嫌いの俺に、容赦ない指導を繰り出す君。放課後の教室、帰り道、いつの間にか俺の毎日は、その笑顔でいっぱいになっていた。誰もが、切なくて愛しい「あの頃」を思い出す、青春ラブストーリーの翻訳版。

 

あの頃、君を追いかけた (講談社文庫)

あの頃、君を追いかけた (講談社文庫)

  • 作者:九把刀
  • 発売日: 2018/08/10
  • メディア: 文庫
 

 

 

 物語が主人公・柯景騰(コーチントン)の一人称を主語として書き進められており、主人公のガキっぽさも手伝って、ある意味独りよがりな小説となってしまっている。しかし、そんな主人公ならではの熱い胸中を吐露するには、一人称の語りはかえって相応しい。恋は盲目。客観的な視点などもとより持ちようがないだろうから。

 もちろんフィクションではあるが、著者の自伝的小説だという。それだけに、主人公のキュンキュンするほどの胸の内がストレートに伝わってくる。思春期特有の甘酸っぱさ、人を好きになったときのなんとも言えない幸福感、失う事への畏れ、洋々たる未来への希望と未だ何も成し得ていない自分への不安等々、そうしたものが読み手の記憶とも呼応しながら怒濤となって押しよせてくる。

 還暦を超えた私にはもう微かな記憶となってしまった「あの頃」、懐かしさと不可逆であることへの焦燥、そして幾許かの後悔を胸に夢中になって読み、本を閉じた。映画も観よう。