2021/05/26
『世界の中心で愛を叫んだけもの』(ハーラン・エリスン:著/浅倉久志+伊藤典夫:訳/ハヤカワ文庫SF)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
〔ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞〕人間の思考を超えた心的跳躍のかなた、究極の中心クロスホエン。この世界の中心より暴力の網は広がり、全世界をおおっていく……暴力の神話、現代のパンドラの箱を描いた表題作など、短篇十五篇を収録。米SF界きっての鬼才による、めくるめくウルトラ・ヴァイオレンスの世界
本書はハーラン・エリスン氏による15篇の短編が収められた短編集。表題となった「世界の中心で愛を叫んだけもの」(1969年度ヒューゴー賞短篇部門を受賞)は本書の最初に収められている。日本では片山恭一氏の青春恋愛別離小説『世界の中心で、愛をさけぶ』(2001年刊行)およびそれを原作とした映画あるいはTVドラマが圧倒的に知られているので、何らかの関係があるのかと考えてしまう人も多いかと思う。私もその一人だったが、まったく関係ないと言い切って良いと思う。片山氏がハーラン・エリスン氏のファンであったかどうか、短編「世界の中心で愛を叫んだけもの」を読んでいたかどうか、そうしたことは不明である。ひょっとしたら『新世紀エヴァンゲリオン』の最終話(1996年)のサブタイトルに「世界の中心でアイを叫んだけもの」が使われたので、そちらが「セカチュー」のタイトルに繋がったのかもしれない。少なくとも『新世紀エヴァンゲリオン』のサブタイトルにこれが使われたのは、ハーラン・エリスン氏の作品へのリスペクトがあるのだろう。しかしまあ、そんなことはどうでも良いことだ。
収められた15篇を列挙しておこう。
- 世界の中心で愛を叫んだけもの (The Beast that Shouted Love at the Heart of the World)
- 101号線の決闘 (Along The Scenic Route)
- 不死鳥 (Phoenix)
- 眠れ、安らかに (Asleep : With Still Hands)
- サンタ・クロース対スパイダー (Santa Claus vs. S.P.I.D.E.R.)
- 鈍いナイフで (Try a Dull Knife)
- ピトル・ポーウォブ課 (The Pitll Pawob Division)
- 名前のない土地 (The Place with No Name)
- 雪よりも白く (White on White)
- 星ぼしへの脱出 (Run for the Stars)
- 聞いていますか? (Are You Listening?)
- 満員御礼 (S.R.O.)
- 殺戮すべき多くの世界 (Worlds to Kill)
- ガラスの小鬼が砕けるように (Shattered Like a Glass Goblin)
- 少年と犬 (A Boy and His Dog)
表題作にして巻頭を飾った作品「世界の中心で愛を叫んだけもの (The Beast that Shouted Love at the Heart of the World)」は期待に胸を躍らせて読んだのだが、良く分からなかった。全15篇を読んだ後、もう一度読んでみたのだが、それでも分かったとは言い難い。難しい作品だ。作者はあまり説明的な記述をしないようで、良く分からないものは分からないまま。それでも作品の世界観は強く心に残る。理解できないところはそのままに受け入れて、その世界を感じる、そうした読み方で良いのかもしれない。
秀逸と感じたのは最後の「少年と犬」。先日、同タイトルの短編集『少年と犬』(馳星周)を読んだばかりだが、名前は同じでも全くテイストが違った。しかし、犬と人間の強い絆というものは共通していると言って良い。犬好きにはたまらない作品で、もちろんSF作品としても出色の出来だろう。映画化されているようなので、それは是非とも観たい。TSUTAYAにあれば良いのだが。
「101号線の決闘 (Along The Scenic Route)」は分かりやすく楽しめる作品。なかなか良い。
他には「サンタ・クロース対スパイダー (Santa Claus vs. S.P.I.D.E.R.)」、「星ぼしへの脱出 (Run for the Stars)」、「聞いていますか? (Are You Listening?)」が私好みで楽しめた。