佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

2021年5月の読書メーター

2021/06/01

5月の読書メーター
読んだ本の数:13
読んだページ数:4034
ナイス数:1203

 

 先月の読書は充実していた。ステイホームで冊数も増えたが、中身も思想、哲学があったと思えば、コミック、エッセイまで。犬萌えな月でもあった。直木賞作家・馳星周氏初読みにしてのめり込んでいきそうな予感。

君主論 - 新版 (中公文庫)君主論 - 新版 (中公文庫)感想
本書を読んで分かったのは、本書が私が予想したように難解な書ではないこと。マキアヴェリの論旨は明快。そのような論旨に至った理由をマキアヴェリが生きた時代と過去の事例を引きながらつまびらかにしてくれる。さらに注釈が丁寧に施されており、歴史に疎い私にはありがたかった。五百年も前に書かれたものであっても今の時代に応用可能な絶対的教訓は、マキアヴェリがいかに透徹した洞察力に富んでいたかを物語る。
読了日:05月02日 著者:マキアヴェリ


憲法くん憲法くん感想
「理想と現実がちがっていたら、ふつうは、現実を理想に近づけるように努力するものではないのか」正論です。しかし、私の胸中にはなにやらモヤモヤが残ります。憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」とあります。現状、日本の周りにそんな国はほとんど見当たらない。マキアヴェリは「人が現実に生きているのと、人間がいかに生きるべきかというのとは、はなはだかけ離れている。だから、現実の姿を見逃す人間は自立するどころか破滅を思い知らされるのが落ちである」と言っている。憲法くん、君は早く生まれすぎたようですね。
読了日:05月03日 著者:松元 ヒロ,武田 美穂


乙嫁語り 13 (ハルタコミックス)乙嫁語り 13 (ハルタコミックス)感想
今巻はタラスさんを伴ったスミスさんの旅。最終的にはカルルクとアミルに会いたいと中央アジアを東へ進み、アラル海周辺の漁村まで来た。そこで新婚ほやほやのライラとレイリと再会する。二人は息災にというか、溌剌として暮らしている。よかった、よかった。ただ、時は19世紀後半。中央アジアにはロシア南下政策の暗雲が垂れ込める。スミスさん一行もアラル海から先に進もうとして、とある村でロシア軍らしきものから襲撃を受ける。カルルクとアミルはどうしているだろうか、無事でいるだろうかと憂慮する。次巻がまちどおしい。
読了日:05月05日 著者:森 薫


花まんま (文春文庫)花まんま (文春文庫)感想
六篇の短編どれもがそれぞれの味わいを持ち、心をざわつかせる。 人の世の罪、穢さ、不条理、弱さ、哀しみを見つめつつも、どこか救いのあるストーリーが、猥雑で濃密な空気を持つ大阪の町の風景の中に展開される。大阪の町らしい温かみとユーモアも感じられた。'60年代に少年時代を過ごした私にはどこか懐かしく、過去にタイムトラベルしたような気分で読んだ。 差別される側の弱者、差別する側も弱者、それを克服し跳ね返そうとする強さと負けそうになる弱さ。差別に対する作者の視点は心の柔らかい部分に沁みる。
読了日:05月06日 著者:朱川 湊人


あの頃、君を追いかけた (講談社文庫)あの頃、君を追いかけた (講談社文庫)感想
物語が主人公・柯景騰(コーチントン)の一人称を主語として書き進められており、主人公のガキっぽさも手伝って、ある意味独りよがりな小説となってしまっている。しかし、思春期の主人公の熱い胸中を吐露するには、一人称の語りはかえって相応しい。恋は盲目。客観的な視点などもとより持ちようがないだろうから。思春期特有の甘酸っぱさ、人を好きになったときのなんとも言えない幸福感、失う事への畏れ、洋々たる未来への希望と未だ何も成し得ていない自分への不安等々、そうしたものが読み手の記憶とも呼応しながら怒濤となって押しよせてくる。
読了日:05月10日 著者:九把刀


少年と犬少年と犬感想
やはり犬の物語はイイ。 この小説の主人公は犬です。謎の目的を持って釜石から南へ、そして西へと旅していく。その旅の途中で飢え、傷つき、一時的に出会った人間に身を寄せる。 馳氏はその犬を擬人化することなく、賢く、忠実で、誇り高い、そのうえ飼い主に寄り添う包容力すらある犬を描ききった。 六つの物語でこの犬の釜石から熊本までの冒険を垣間見ることが出来たが、ほんとうはその裏にも様々な冒険があったのだろう。犬は語る言葉を持たない。この物語を一気に読み終えたが、代わりに物語の空白をあれこれ想像し余韻を味わった。
読了日:05月11日 著者:馳 星周


あした咲く蕾 (文春文庫)あした咲く蕾 (文春文庫)感想
本書は『花まんま』と対になる作品だとか。なるほど『花まんま』は昭和の大阪が舞台だが、『あした咲く蕾』は昭和の東京が舞台となっている。登場人物の言葉のイントネーションはもちろん、町の空気といったものも違ってはいるが、時代はほぼ同じで、どちらも心にしみる不思議な物語だという点で共通している。七編の短編すべてが良かったが、出色は『虹とのら犬』だろう。泣いてしまうほどの幸福感を味わった。個人的には最近読んだ短編で一番だった。
読了日:05月12日 著者:朱川 湊人


孤篷のひと (角川文庫)孤篷のひと (角川文庫)感想
恥ずかしながら私は小堀政一遠州)という人物をよく知りませんでした。山田芳裕氏が古田織部を描いた漫画『へうげもの』の登場人物として知っている程度です。 本書を読んで、「きれいさび」と言われる遠州の茶が少し分かった気がします。そして融通無碍ともいえる遠州の生き方に感銘を受けました。生き方でいえば、千利休が自分の求める美にこだわり豊臣秀吉から死を賜ったこと、同じく己の信じる美にこだわるへうげもの古田織部徳川秀忠から死を賜ったことをを見れば、遠州の生き方はしなやかだと見える。
読了日:05月16日 著者:葉室 麟


「反原発」異論「反原発」異論感想
東日本大震災が2011年3月11日。氏は2012年3月16日に逝かれたので本書のタイトルとなった「反原発」異論という主張は氏の思想の一つの到達点であるともいえるだろう。一方、世の中に「反核」「反原発」という考えを金科玉条として一片の疑いも差し挟むことなく盲目的に信奉する人は多い。こうした旧態依然とした定型的な考えに囚われることなく、言論人として世間から孤立してしまうことをも畏れず、おのれの考えを堂々と世間に公表してこられた氏に心からの敬意を表する。氏の言論に対して死者に鞭打つ言葉が多いことに心を痛めつつ。
読了日:05月20日 著者:吉本 隆明


ソウルメイト (集英社文庫)ソウルメイト (集英社文庫)感想
『少年と犬』を読み本書も読みたくなった。『少年と犬』もそうであったが、馳氏は犬を擬人化せず物語を書いている。それでいて犬が飼い主に寄り添い、飼い主に全幅の信頼を寄せ、あるときは飼い主に甘え、またあるときは飼い主を心配する姿を過不足ない言葉で書くことで読み手の心を温かいもので充たしてくれる。7篇それぞれ良かったが、中でも「柴」「ジャーマン・シェパード・ドッグ」「バーニーズ・マウンテン・ドッグ」が特に良い。それは私の好みの犬種でもある。自分が飼っているわけでもないのに、涙が出るほど愛おしくて抱きしめたくなる。
読了日:05月23日 著者:馳 星周


地球の裏のマヨネーズ (文春文庫)地球の裏のマヨネーズ (文春文庫)感想
椎名氏のエッセイにはしばしば外国のトイレの話が登場する。本書にも中国成都の便器いっぱいあふれんばかりになった黒褐色赤茶まだら緑赤混合さまざまな邪悪色の阿鼻叫喚便所の話があった。金をもらっても中国には行きたくない。 解説は沢野ひとし氏。小岩のアパートでの酒盛り、中野駅前オデン屋台のコップ酒、椎名氏率いる怪しい探検隊が催す海辺焚火酒盛りの思い出話は、私がその場にいたわけでもないのになんだか懐かしくて涙が出そうになる。私はかれこれ40年ほど椎名氏のエッセイを読み続けることでそうした酒盛りを疑似体験してきたのだ。
読了日:05月24日 著者:椎名 誠


世界の中心で愛を叫んだけもの (ハヤカワ文庫 SF エ 4-1)世界の中心で愛を叫んだけもの (ハヤカワ文庫 SF エ 4-1)感想
表題作「世界の中心で愛を叫んだけもの 」は期待に胸を躍らせて読んだのだが、良く分からなかった。もう一度読んでみたのだが、それでも分かったとは言い難い。理解できないところはそのままに受け入れて、その世界を感じるといった読み方で良いのかもしれない。秀逸なのは最後の「少年と犬」。先日、同タイトルの短編集『少年と犬』(馳星周)を読んだばかりだが、名前は同じでも全くテイストが違った。しかし、犬と人間の強い絆というものは共通していると言って良い。犬好きにはたまらない作品で、もちろんSF作品としても出色の出来だろう。
読了日:05月26日 著者:ハーラン・エリスン


不夜城 (角川文庫)不夜城 (角川文庫)感想
無秩序で無国籍で猥雑で危険な街、新宿歌舞伎町。暗く深い悲しみと絶望に満ちたている。そんな街で生きようとする男、いやそんな街でしか生きられない男が、ただ一人一緒にいたいと思う女に出逢った。まったく信用できない、ある意味、自分と生き写しの女ではあるけれど、それだけにその女のことが心の奥底の部分で分かる。相手が平気で自分を裏切る人間だとお互いに知りながら、それを分かったうえで一緒にいたいと思った唯一無二の存在。そんなかたちでしか絆を持てない二人が切なく、哀しく、美しい。よい小説でした。続編も読みます。
読了日:05月30日 著者:馳 星周

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