佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『つむじ風食堂と僕』(吉田篤弘:著/ちくまプリマー新書)

2021/07/11

『つむじ風食堂と僕』(吉田篤弘:著/ちくまプリマー新書)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

少し大人びた少年リツ君12歳。つむじ風食堂のテーブルで、町の大人たちがリツ君に「仕事」の話をする。リツ君は何を思い、何を考えるか…。人気シリーズ「月舟町三部作」番外篇。

 

 

 月舟町シリーズ番外編である。先日三部作の完結編『レインコートを着た犬』を読んだ流れで、こんなスピンアウトがあったのを知り買い求めた。

 主人公の少年は12歳。リツ君と呼ばれている。物語の舞台となっている月舟町から電車で一駅の桜川町に住んでいる。お父さんは桜川町で『トロワ』(フランス語で3のこと)というサンドイッチ店を営んでいる。このサンドイッチ店は月舟町3部作の2作目『それからはスープのことばかり考えて暮らした』に登場した店だ。リツ君も主役ではないが準主役級で登場していた。少年はしばしば電車に乗って月島町の『つむじ風食堂』に食事をしに行く。ひとりでポケットには10枚の百円玉を入れて。そのお金はお父さんから五百円、オーリィさんから三百円、マダムから二百円をカンパしてもらうのだ。オーリィさんというのは大里と言う人でサンドイッチ店『トロワ』でおいしいスープを作る従業員で『それからはスープのことばかり考えて暮らした』の主人公だった人、そしてマダムはオーリィさんの住むアパートの大家さんである。『それからはスープのことばかり考えて暮らした』で少年は小学四年生。当時、少年は確か恋愛について考えており、世の中のことをきちんと知ろうとする態度は既に大人であった。

 本作で少年はつむじ風食堂で出会う大人たちから職業について話を聴く。自分が将来どんな仕事をすればいいかを探しているのだ。大人たちの話を聴くうち、少年は世の中が役割分担と調和で成り立っていることに気づく。そして仕事をするうえで、あるいは生きていくうえで大切なことは継続であることを知る。そして物事は「ほどほど」が良いのだということも。小学四年生にして既に大人であった少年は、小学校六年生にしてもうただの大人ではない。この町に、いやこの世界に、この星に大切なものが何かを知る立派な大人になっている。

 遠い遠い昔のことを思い出して、私の少年時代はどうであっただろう。リツ少年のように、ただ一人で見知らぬ大人と話すことなどとても出来なかった。世の中について未だ何も知らず、自分が何者かも分からず、分かっているのはこのままでは自分には何も為し得ないだろうという事だけだった。ダメな奴だと見透かされるのが怖くて、大人とまともに向き合うことが出来なかった。未来の可能性について考えるより、恥ずかしさに身を縮めて、ひたすら内向きになっていたように思う。物事は「ほどほど」が良いのだと分かったのは人生の終盤にさしかかったつい最近のことである。考えてみれば、今日まで大過なく過ごしてこれたのは奇蹟に近い僥倖といえる。