佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

2021年7月の読書メーター

2021/08/01

 先月の読書のまとめ。

 5月、6月からの流れで犬ものを2冊。それに関連して久々に吉田篤弘氏の世界に酔う。

 特筆すべきは『仁義なきキリスト教史』(架神恭介)。罰当たりなほどにぶっ飛んだ本であった。敬虔なクリスチャンからお叱りを受けそうだが、キリスト教(あるいはその他の唯一神を崇める宗教)の本質をちゃかしつつスルドク突いた名著であろう。

 下旬に入って『模倣犯』(宮部みゆき)を読み始めた。全5巻の長編である。そうなって欲しくない悪い方向にどんどん物語が進んでいく。この世に神も仏も無いものか、これでは救われないではないか、もう読むのをやめたいと思いながらも読み続けてしまう。最後にはきっと正義の鉄槌が下され、和明の汚名は濯がれるはずだと信じながら読んでいる。今、第4巻の途中であるが、未だ和明は世間からも警察からも犯人と目されている。あぁ、読むのが辛い。

 

7月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:3759
ナイス数:1209

その犬の歩むところ (文春文庫)その犬の歩むところ (文春文庫)感想
泣いた。人間の勝手で、人間の悪意で、何度も酷い目に遭い、時には命すら落としかけた犬が、その強さと善良さで信頼に足る人間との絆を強め、最も貴い自己犠牲の行為で奇蹟をおこした物語に泣いた。体中にあるおびただしい傷、これまでの辛酸にすり切れボロボロになりながらも、自尊心をまとったGivという名の犬に、あるべき姿を見た。生きていれば想像もしなかった不運に見舞われることがある。信じられないほどの悪意に傷つき打ちのめされることもある。それでも誇りを失わず、気高く美しくあること。それは我々人間こそが会得すべき姿だろう。
読了日:07月02日 著者:ボストン テラン


バカの国 (新潮新書)バカの国 (新潮新書)感想
最近あった不祥事のおさらいが出来たが、人間が如何に強欲で、狡く、破廉恥で、浅ましい存在であるかと辟易しながら読んだ。ここしばらく誇り高く、飼い主に全幅の信頼と愛情を示す犬を主人公とした小説を数冊読んできたこともあって、人間のダメぶりに唖然とする。読んでいくうち、怒りを通り越して体も心もへなへなとへたってしまった。 それにしてもよくもまあこれだけ「バカ」が溢れているものだと思う。しかしよく子供に諭す「バカという人がバカなんだよ」という言葉を思い出して自省せねばなるまい。
読了日:07月04日 著者:百田 尚樹


レインコートを着た犬レインコートを着た犬感想
本書の主人公は「月舟シネマ」という小さな映画館に住む”ジャンゴ”とも、”アンゴ”とも、”ゴン”とも、ただの”犬”とも呼ばれる犬だ。その犬の視点で、月舟町の住民の日常を観たのがこの物語。ジャンゴにはもしも人間と同じように振る舞えたら行ってみたいところが三つある。一つは「銭湯」、二つ目は「図書館」、三つ目は「喫茶店」だ。人間であればありきたりであたりまえの場所だけれど、人にとっても本当にたいせつなところは案外そんなところなのかもしれない。月舟町のふんわりあたたかい世界に浸る読書時間が心地よい。
読了日:07月05日 著者:吉田 篤弘


仁義なきキリスト教史仁義なきキリスト教史感想
キリスト教の歴史を映画『仁義なき戦い』風にコテコテの広島弁を使った熱いドラマに仕立てている。同じ唯一神ヤハウェを崇めるキリスト教ユダヤ教イスラム教同士がいがみ合い、はたまた同じキリスト教であっても宗派間の争いがあり、時には流血の抗争、さらには戦争にまで発展してしまったという歴史。それをやくざの血で血を洗う抗争劇になぞらえることで、妙に臨場感とおもしろみがグッと増した物語となっている。罰当たりなことかもしれないが、これがピタリと嵌まっており面白い。巷間に迷信は尽きるとも、信仰に争いの種は尽きまじ。
読了日:07月09日 著者:架神 恭介


つむじ風食堂と僕 (ちくまプリマー新書)つむじ風食堂と僕 (ちくまプリマー新書)感想
少年はつむじ風食堂で出会う大人たちから職業について話を聴く。自分が将来どんな仕事をすればいいかを探しているのだ。大人たちの話を聴くうち、少年は世の中が役割分担と調和で成り立っていることに気づく。そして仕事をするうえで、あるいは生きていくうえで大切なことは継続であることを知る。そして物事は「ほどほど」が良いのだということも。小学四年生にして既に大人であった少年は、小学校六年生にしてもうただの大人ではない。この町に、いやこの世界に、この星に大切なものが何かを知る立派な大人になっている。見どころのある少年だ。
読了日:07月11日 著者:吉田 篤弘


一人称単数一人称単数感想
この短編集『一人称単数』は「僕・ぼく・私=村上春樹」と強く思わせる自伝的な小説群という気がする。もちろん事実や経験を主体にした私小説ではない。基本的には虚構であって、あくまでその中にこの部分は村上氏の回想なのだなとピンとくるエピソードがちりばめられているということだ。文学は読み手にいろいろなことを考えさせる。優れた文学は特に。事実と虚構の交錯した世界を彷徨いあれこれ考えてみる。何の意味も無いただのあそびといっても良い行為だ。でもただのあそびだからこそそれに惹かれるのだ。ひさしぶりに村上ワールドにあそんだ。
読了日:07月14日 著者:村上 春樹


NHK 100分 de 名著 レイ・ブラッドベリ『華氏451度』 2021年6月 (NHK100分de名著)NHK 100分 de 名著 レイ・ブラッドベリ『華氏451度』 2021年6月 (NHK100分de名著)感想
伊藤典夫訳の『華氏451度』(ハヤカワ文庫)を読んだ後、本書を読んでおさらい。なんと私の読み方の浅かったことか。私が本を読むのは楽しみのためであって、けっして勉強のためではない。しかしそれでもその本や作家のことを研究し、たくさんの知識を持った方の解説を読むのは好奇心が満たされるスリリングで愉しい時間であった。こうした読書も良いものだ。「NHK100分de名著」なかなか良い番組だ。永く続けて欲しい。そしてアーカイブとしていつまでも保存し、我々がアクセスできるようにしていただきたい。
読了日:07月15日 著者:戸田山 和久


子規の音 (新潮文庫)子規の音 (新潮文庫)感想
子規の生涯を今に残る様々な資料を森まゆみ氏が丹念にあたり、実際に足跡を辿るなどして時系列に整理したもの。特にその折々に子規が詠んだ和歌、俳句をふんだんに盛り込んで、もし私が子規に心酔する者であればさぞかしといった作品になっている。興味深かったのは子規が喀血した後に東北へ長旅に出かけたこと、また日清戦争にも従軍したことだ。子規にとって心がさわぐことが第一であって、身体のことその他の身の回りのことは二の次なのだろう。三十路にあって未だ少年の心、すなわちあそびがある。未熟というのではない。価値観が違うのだろう。
読了日:07月19日 著者:森 まゆみ


素敵な蔵書と本棚素敵な蔵書と本棚感想
インテリアとして計算された蔵書と本棚。丁寧な装幀が施され、客の目にさらされることを予定して選ばれた蔵書。空間の中で目を引き、さりげなさを装いながら知的であることを印象づけるアイテムとしての蔵書と本棚が美しい写真でどのページにも溢れている。「しゃらくせえ。本はインテリアなんかじゃねえぜ!」と腐しながらもページを捲る手が止まらない。写真に目が奪われる。眼福とはこのことか。この時代に生まれて良かった。世は既にデジタル時代。近い将来、紙の本と書棚を持つ人はよほどの趣味人か金持ちだけになってしまうのかもしれない。
読了日:07月22日 著者:ダミアン・トンプソン


模倣犯1 (新潮文庫)模倣犯1 (新潮文庫)感想
どうしてこんな邪な輩がいるのだろう。もちろんこれはフィクションだ。しかしかたちの違い、程度の差こそあれ、現実社会にもここにあるような犯罪者がいる。彼らにも事情はあるだろう。彼らもまた社会の犠牲者だという声もある。だが仮にそうだとしても、踏みにじられて良い命などない。真っ当に生きる命が奪われて良いはずはない。それだけは確かだ。この救いのない物語は始まったばかりだ。まだ残り4巻ある。この物語の行く末を見届けたい気持ちと、もう読むのをやめたい気持ちが相半ばしている。しかしどうあっても正義の裁きを見たい。次巻へ。
読了日:07月25日 著者:宮部 みゆき


模倣犯2 (新潮文庫)模倣犯2 (新潮文庫)感想
被疑者死亡で終わった第1巻。第2巻は死亡した被疑者二人とその同級生であるピースを中心に、時を遡って物語が展開する。被疑者の一人は見かけだけは良いがどうしようもないクズ。もう一人は底抜けのお人好し。あぁ、この幼なじみの組合せは最悪のパターンだ。真っ当で無垢なお人好しは極悪人からすれば格好な獲物。バカと虐げられ、利用され、搾取される。 お人好しはそれも判りながら幼なじみを拒絶できない。並はずれた優しさの持ち主でもある。救いのない物語だ。もう読むのをやめたい。しかし続きを読まずにいられない。次巻へ進む。
読了日:07月26日 著者:宮部 みゆき


模倣犯3 (新潮文庫)模倣犯3 (新潮文庫)感想
和明がなぜ浩美と縁を切らないのか。マインドコントロールされているのかとも考えたが、理由はもっと人間らしく温かいものだった。切なすぎる。無垢な者は悪意に対してあまりにも無防備で弱い。神はけっして善なる者を助けてはくれない。警戒心を持たず無防備な者が邪な者の欲望や快楽のために蹂躙される。あってはならないことだが、往々にしてそのようなことがある。理不尽に怒り、神も仏も無いものかと嘆いてもそれが現実。私が「優しくある」ことよりも「強くある」ことが必要だと気づいたのは18歳の春だった。和明にそれを知って欲しかった。
読了日:07月29日 著者:宮部 みゆき

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