佐々陽太朗の日記

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『魔弾 "THE MASTER SNIPER"』(スティーヴン・ハンター:著/玉木亨:訳/新潮文庫)

2021/08/13

『魔弾 "THE MASTER SNIPER"』(スティーヴン・ハンター:著/玉木亨:訳/新潮文庫)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

 ユダヤ人シュムエルが移送された先は、ドイツ南西部にある収容所だった。ある夜のこと、作業中の囚人たちが漆黒の闇のなかで次々と倒れていった。ただ一人逃げ延びた彼は、仲間が絶対不可能なはずの狙撃の標的にされたことを知る。一方、米国陸軍大尉リーツは、銃器の発注書からドイツ軍が要人暗殺を極秘裏に計画中だと気づくが…。『極大射程』の原点となった名編、ついに登場。

 

 

 

 

 私は新潮文庫(平成12年10月1日発刊)で読んだが、その後題名も新たに『マスター・スナイパー』として扶桑社から復刻版が出版されている。人気作家スティーブン・ハンターの処女作、つまり彼の小説家としての原点といえる作品である。

 物語の舞台は第二次世界大戦で戦況がドイツ不利となりやがて終戦となった頃のポーランド、ドイツ、そしてスイス。ドイツの敗戦が濃厚となった頃に、ドイツ側である特別な作戦が極秘に推し進められており、どうやらそれがスナイパーが誰か重要人物を狙撃することを目的としているらしいと連合国側が知るところとなる。その目的は何か、標的が誰か、作戦の中身はどんなものかを追及していくかたちで物語が進行していく。少しずつそれらが解明されていき、やがて驚きの標的とその目的が明らかになる。はたしてその作戦は阻止できるのか。緊迫の結末ということになる。

 スティーブン・ハンターらしく、肝となるのは狙撃。それも暗闇の中で、弾丸の音を消して標的となった者達に狙撃されていることを悟らせないで26人を次々と射殺するという離れ業をやってのけようというのだからすごい。

 狙撃手とそれを阻止しようとする者の織りなす冒険小説でありながら、物語の背骨にホロコーストシオニズムを据えた重厚な作品となっている。読み物としてのおもしろさは圧倒的に『極大射程』に軍配が上がるが、ハンターが処女作にかけた気合いが感じられ、良い意味での力みが好もしい。翻訳されたハンターの小説はおおかた読んでいるが、未だ読んでいないものがいくつかある。それらも読みたい。