佐々陽太朗の日記

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『消えた女 "MISSING WOMAN”』(マイクル・Z・リューイン:著/石田善彦:訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)

2021/08/16

『消えた女 "MISSING WOMAN”』(マイクル・Z・リューイン:著/石田善彦:訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

二カ月前に失踪した友人を探してほしい─エリザベスと名乗る女の依頼で、わたしはその友人プリシラが住んでいた町に赴いた。やがて彼女は青年実業家と駆け落ちしたらしいことがわかり、調査は打ち切られた。が、数カ月後、実業家の他殺体が森で発見され、警察は一緒にいたはずのプリシラの死体を捜しはじめる。わたしがエリザベスに連絡しようとすると、彼女もまた姿を消していた……私立探偵サムスン・シリーズ代表作

 

 

 

 真面目で誠実な探偵アルバート・サムスン・シリーズの第5弾である。本作もなかなか読み応えのある名作だ。

 本作の冒頭、目の覚めるような美人依頼人の訪問を受けたと思ったら、彼女は探偵の依頼人ではなく寄付を依頼に来たのだったり、エリザベス・ステットラーという婦人から人捜しの依頼を受けたと思ったら、実は・・・・・・と読者は何度も頭の中の思い込みをひっくり返される。ミステリを読むからには意外な事実にそれなりに身構えて読んではいるが、リューインの手練手管にあっさりやられてしまう。なかなか一筋縄では真相にたどり着けない。

 人間は一皮剥けば違う顔を持っている。「人は見かけによらぬもの」とわかっちゃいるけどついつい思い込みの罠にはまってしまうものだ。探偵サムスンは何度も間違う。コツコツと調査を重ねて、確認できた事実から思い込みを見直し修正する。何度も何度もそれを繰り返すことで、これまで見えてこなかった意外な真実にたどり着く。天才的なひらめきを持っているわけではない。荒事は苦手。それでも真実を知りたいと思う気持ちは人一倍強く、真っ当な人にはいつでも手を差しのべようとしている。良いミステリです。なぜ絶版になっているのか、理解に苦しむ。

 余談であるが、本シリーズを読むものとしてうれしいことが二つあった。一つは探偵事務所のネオンサインである。これは前作『沈黙のセールスマン』で18歳になった娘がプレゼントしてくれたもの。いつかもう一度娘を助手として一緒に調査をすることがあるのだろうか。あるいはさらにすすんで共同経営者として。そんなことを夢想して幸せな気分になりながらも、ちょっと切ない。もう一つは本作に登場するインディアナポリス市警失踪人課のリーロイ・パウダー警部補である。リューインはこのパウダー警部補が活躍する警察小説を三部書いており、それらにはアルバート・サムスンも登場するようだ。そろそろその三部作の一つ目『夜勤刑事』を読むべき頃合いなのかもしれない。