佐々陽太朗の日記

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『名もなき毒』(宮部みゆき:著/新潮文庫)

2021/08/31

名もなき毒』(宮部みゆき:著/新潮文庫)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

 今多コンツェルン広報室に雇われたアルバイトの原田いずみは、質の悪いトラブルメーカーだった。解雇された彼女の連絡窓口となった杉村三郎は、経歴詐称とクレーマーぶりに振り回される。折しも街では無差別と思しき連続毒殺事件が注目を集めていた。『誰か Somebody』から約一年後の出来事を描き、テレビドラマ化でも話題となった人気の杉村三郎シリーズ第二弾。人の心の陥穽を圧倒的な筆致で描く吉川英治文学賞受賞作。
 解雇されたことを根に持って杉村をつけ狙う原田いずみは、悪意に心をのっとられた存在だ。その行動は危険であるのに幼稚極まりない。彼女は真の大人になる契機を摑むことができずに成人してしまった偽の大人であり、人の世にありながら他者の痛みを感じることができなくなった歪な精神の持ち主なのだ。
 思い起こせば、そうした者たちが仮面をつけたままこの社会で普通に生活しているということを、早い段階から不安視していたのが宮部みゆきという作家だった。(杉江松恋「解説」より)

 

 

 

 世の中は不公平だ。生まれながらに違いがある。どんな親の下に生まれるか、どの国に生まれるか、男に生まれるか女に生まれるか、五体満足に生まれるか障碍を持って生まれるか、要は生まれ落ちた環境によって天と地ほどの差がある。それが世の中というものだ。なぜ世の中にはさして努力をしなくても裕福に幸せそうに生きている人がたくさんいるのに、自分はそうじゃないのだろう。なぜいくらあがいても努力を重ねても不幸な境遇から抜け出せないのだろう。そう思うのは無理も無い。しかし環境が生き方を左右する以上、その疑問を持つのは詮無いことだ。まして恵まれた者を恨んでも、それは御門違いというものだろう。不幸というものは複雑にこんがらがってなかなか抜け出せない厄介ごとだ。抜け出したければ自分であれこれあがき努力するしかない。冷たいようだがそうするしかない。恵まれた者と自分を比べることこそ、不幸への近道だ。

「すべての人間は生れながらにして平等である」 こんなことを臆面もなく言うヤツは大抵おためごかしだ。「すべての人間は生れながらにして不平等だ。それでもプライドがあるのなら、それを受け容れ覚悟してそこから這い上がれ」ぐらいのことを言ってほしいものだ。

 このところ宮部みゆきの杉村三郎シリーズとマイクル・Z・リューインの探偵アルバート・サムスン・シリーズを交互に読んでいる。次は『季節の終り』(ハヤカワ・ミステリ文庫)だ。心置きなく読書に耽る時間。幸せだなぁ。