2021/10/16
『希望荘』(宮部みゆき:著/文春文庫)を読んだ。
まずは出版社の紹介文を引く。
今多コンツェルン会長の娘である妻と離婚した杉村三郎は、愛娘とも別れ、仕事も失い、東京都北区に私立探偵事務所を開設する。ある日、亡き父が生前に残した「昔、人を殺した」という告白の真偽を調べてほしいという依頼が舞い込む。依頼人によれば、父親は妻の不倫による離婚後、息子との再会までに30年の空白があったという。はたして本当に人殺しはあったのか――。
表題作の「希望荘」をはじめ計4篇を収録。新たなスタートを切った2011年の3.11前後の杉村三郎を描くシリーズ第4弾。
「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身(ドッペルゲンガー)」の四篇からなる短編集。
「砂男」は離婚し、妻の父が創業した今多コンツェルンも退職した杉村三郎が故郷に帰り、そこで出くわした失踪事件の謎を追究する話。その過程で「オフィス蛎殻」という調査会社の経営者から見込まれ、ついには正式に探偵業を始めることになったという、探偵・杉村三郎の成り立ちが描かれている。今多菜穂子と結婚することによって、住む世界ががらりと変わってしまった三郎。市井の人からいきなりハイソサエティーに紛れ込んでしまった戸惑いが随所にみられた三郎であったが、文字どおりホームグラウンドに帰り、本来の自分を取り戻していく中で意外ではあるが適職に行き着いたということだろう。ふつうのサラリーマン生活を送っていても、どういうわけか事件に巻きこまれてしまう三郎にとって、探偵になることは運命だったのかもしれない。
それにしても「希望荘」に登場する依頼人の父の身の上は三郎にとって辛いものであっただろう。いつの日にか三郎の心の傷は癒えるのだろうか。また菜穂子との復縁、あるいは今多コンツェルンへの復帰はあるのだろうか。宮部氏がどのような構想を描いていらっしゃるのか、筆がどう進んでいくのかまったく不明だが、あれこれ想像して続編を待つ。
続編『昨日がなければ明日もない』は順番違いで既に読んでいる。さらにその続編を首を長くして待つ。