2021/11/22
『眼を開く』(マイクル・Z・リューイン:著/HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS)を読んだ。
まずは出版社の紹介文を引く。
【心やさしき探偵サムスン、営業再開】とうとう私立探偵免許が戻ってきた。長く辛かった失意の時代とはおさらばだ。また私立探偵アルバート・サムスンとしての日々が始まる――営業再開にあたって、家族や友人たちも祝福してくれた。ただひとり、幼なじみの親友ミラー警部をのぞいて。確かに免許を失ったいきさつから彼とは疎遠になっていたのだが……やがて復帰後初の大仕事が舞い込んだ。依頼は大手の弁護士事務所から。だがその仕事とは、ミラーの身辺調査だった! 彼の身辺に、いったい何が起きているんだ? 心やさしき探偵アルバート・サムスン復活。待望のシリーズ最新作!
大好きで追いかけている"アルバート・サムスン”シリーズの第8弾。邦訳されているものの最終巻である。私はこのシリーズを「ハヤカワ・ミステリ文庫」で読んできたのだが、そのラインナップに本作はない。ポケミス版を手に入れた。
序盤を読んでみると、ずいぶん長い間私立探偵免許を失っていたようだ。それに母親の住む店に身を寄せている。そしてなんとその店で娘のサムが働いているではないか。そうか娘と同居するようになったのか。素直に喜んで良いのかどうか迷ってしまうが、どんな事情があるにせよ、喜ばしいことではないか。しかし、付き合っていた彼女とは別れてしまったようだ。彼女のことは既刊本の中でも詳しいことはわからないが、ベスト・パートナーだと思いこんでいたので意外である。彼女は警官と結婚したという。ということは、もう元の鞘に収まることは無いのだろう。いったい何があったのだろう。気になるところである。
本書でアルバートは無二の親友と言って良いほどの仲のミラー警部にわだかまりを持っている。私立探偵免許を失ったいきさつにミラーがからんでいるからである。そして免許が回復した最初の仕事が、図らずもミラーにかけられたある嫌疑に関係したことであった。失恋に加え、親友まで失ってしまうのかと読者をやきもきさせる展開だが、結果的には男の友情と信頼は揺るぎなかった。めでたしめでたしである。めでたしといえば、新しい魅力的な彼女もできる。さらにめでたしめでたしである。心優しき私立探偵は健在ということで、続編に期待が高まる。しかし、このシリーズの既刊を調べると、下記のとおり邦訳されたシリーズ作品は本書が最後となっている。
- A型の女(早川書房1978年)
- 死の演出者(早川書房1978年)
- 内なる敵(早川書房1980年)
- 沈黙のセールスマン(早川書房1985年)
- 消えた女(早川書房1986年)
- 季節の終り(早川書房1989年)
- 豹の呼ぶ声(早川書房1993年)
- 眼を開く(早川書房2006年)
その後、シリーズ続編は出版されていないのかと心配したが、どうやらアメリカでは最新作 ”Alien Quartet”が2018年に上梓されたようだ。サムスンを主人公とする4つの中編からなる連作中編集らしい。2006年からずいぶん間が空いたが続編が出ていることにひとまず安心した。早川書房さんに「早く翻訳出版してくれ」という念波を送り続けるとしよう。さもなくば、英語を勉強し直すしかない。我ながら情けないが自助より他力を頼みたい。