佐々陽太朗の日記

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『フィリップ・マーロウの事件 Ⅰ (1935‐1948)』(バイロン・プライス:編/Hayakawa Novels)

フィリップ・マーロウの事件 Ⅰ (1935‐1948)』(バイロン・プライス:編/Hayakawa Novels)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

子供たちの父は、チャンドラーだった。その友は、フィリップ・マーロウだった。彼らの熱い思いがマーロウをここに蘇らせた。レイモンド・チャンドラー生誕百年記念出版。

 

 

 

 レイモンド・チャンドラー生誕百年を記念して、気鋭の作家がフィリップ・マーロウを蘇らせたトリビュート・アルバム的短編集。編集者はバイロン・プライス。知らんけど。しかしフィリップ・マーロウの物語と聞いては読まぬわけにはいかぬ。はてさてマーロウがどんな活躍を見せてくれるのだろうと心浮き立たせつつ読んだ。

 人生いろいろ。作家もいろいろ。訳者もいろいろ。気に入った話もあれば、そうで無いものもある。訳との相性もある。しかし、この本にかかわった人すべてがチャンドラーをリスペクトしマーロウを愛している。一人ひとり訊いてまわったわけではないが、おそらくそうだ。それほどにチャンドラーはその作品を読んだ者を虜にし影響を与えたはずだし、マーロウは読み手の心の中に今も生き続けている。一人ひとり訊いてまわったわけではないが、間違いない。なぜなら、私もその一人なのだから。

 それぞれの編にマーロウがいる。誰にも強制されることなく自分の規範に従って行動するマーロウが確かにここにいる。非情と優しさという両面性、そこにある気高さ、美しさこそが我々がマーロウを愛する由縁である。

 読んでいてシビレる場面続出である。たとえば一番手の短編『完全犯罪』(マックス・アラン・コリンズ)の一場面。

 彼女は微笑んだ。輝くような笑顔だった。映画で見るよりも白い歯が大きくのぞいた。「何かお飲みになる、マーロウさん?」

「飲むには少し早すぎる」

「わかってるわ。でも、一杯いかが?」

「だったらもらおう」

「何がいい?」

「小さな紙の傘がはいっていないようなやつならなんでもいい」

 彼女は私にライ・ウイスキーを注ぎ、自分にも同じものを注いだ。私はライ・ウイスキーを飲む女が好きだった。

 いいねぇ。あまりにいいので、昨年末、大阪曾根崎のサンボアでライ・ウイスキーを頼んでしまったほどだ。これまではアイラをやるのが常だったのに。

 さて、次は『裏切りの街』(ポール・ケイン:著)を読もう。本書にベンジャミン・M・シュッツが寄せた短編『黒い瞳のブロンド』の中でマーロウが読んでいたものだ。amazonにある出版社の紹介文によると「チャンドラーが“超ハードボイルド”と評し、ビル・プロンジーニジョー・ゴアズも“『裏切りの街』はまさにハードボイルドだ”と絶賛した極めつきの名作。」だとか。楽しみである。