佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『ドライブインまほろば』(遠田潤子:著/双葉文庫)

ドライブインまほろば』(遠田潤子:著/双葉文庫)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

山深い秘境を走る旧道沿いにぽつんと佇む「ドライブインまほろば」。店主の比奈子が一人で切り盛りする寂れた食堂に、突然男の子が幼い妹を連れて現われた。憂と名乗る少年は「夏休みが終わるまでここに置いてください」と必死に懇願する。困惑する比奈子だが、事故で亡くした愛娘の記憶が甦り、逡巡しながらも二人を受け入れてしまう。その夜更け、比奈子は月明かりの下で激しく震え鳴咽する憂に気付いた。憂は、義父を殺し逃げてきたことを告白し―。「生きる意味」を問い、過酷な人生に光を灯す感動長編。

 

 

 

 親からの憎悪と虐待、親に頼らなければ生きるすべのない子どもにとってこれほど過酷な環境があるだろうか。残念ながら現実社会に起きている児童虐待事件をみれば、この小説をフィクションに過ぎないと割り切って軽く読むことは出来ない。主人公・憂の置かれたあまりの苛烈な情況に胸が痛み、読むのをやめたくなった。しかし、この物語の結末に救いがあるのではないか、きっとそうだと心を励まして読んだ。

 強い者、力を持つ者にはそれにふさわしい振る舞いがあるはずだ。もし強者がその力のままに弱者を蹂躙するならば、そして弱者の思いを省みることがなければ、それは人たるものの所行ではないだろう。虐待をする者は本当は弱者なのかもしれない。他者から権力を振るわれることに怯えて暮らしているのかもしれない。本当の強さは己の弱さをしっかりと見つめ認めることだろう。

 人間はとことん愚かな行動を取りうる動物だし、必ずしも正義の側につかない。それは今現在の世界情勢をみれば明らかだ。ロシアによるウクライナ侵攻は世界の目にさらされてなお堂々と実行されている。

 邪悪な者に立ち向かうには勇気が要る。時に自分が大切にするものや命をも賭さねばならないかもしれない。世の中は理不尽で、愛や正義がいとも簡単に蹂躙されることがある。しかしそれでも正しいことがなされるよう立ち向かわねばならない。逆境にあっても最後まで諦めず生き抜く努力をしなければならない。そうしてたとえ命を失う結果に終わったとしても、それは誰かを動かし受け継がれるはずだ。そう信じたい。

 遠田氏が書きたかったことからはずれているかもしれないが、そんなことを考えた。

 

 

自分の弱さを認めるのもひとつの強さだ。