佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『犬神博士』(夢野久作:著/角川文庫)

『犬神博士』(夢野久作:著/角川文庫)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

おカッパ頭の少女のなりをした踊りの名手、大道芸人の美少年チイは、風俗壊乱踊りを踊ってワイセツ罪でつかまるが、超能力ぶりを発揮して当局者をケムにまく。つづいていかさま賭博を見破ったり、右翼玄洋社の壮士と炭坑労働者とのケンカを押さえるなど八面六臂の大活躍。大衆芸能を抑圧しようとする体制の支配に抵抗する民衆のエネルギーを、北九州を舞台に、緻密で躍動的な文体で描き出す、夢野文学傑作のひとつ。

天下の奇人が語りはじめた、世にも珍妙な冒険譚おかっぱ頭の少女チイは、じつは男の子。大道芸人の両親に連れられて各地を踊ってまわるうちに、大人たちのインチキを見破り、炭田の利権をめぐる抗争でも大活躍。体制の支配に抵抗する民衆のエネルギーを熱く描く。

 

 

 

 先月『ビブリオ古書堂の事件手帖Ⅲ~扉子と虚ろな夢~』(三上延:著/メディアワークス文庫)を読んだ後、夢野久作の作品、特に『ドグラ・マグラ』を読むかどうかを躊躇っていたところ、読メ友だちから本書を薦められた。

 読んでみて思いのほか読みやすかったことに驚いている。実の親を知らず、乞食大道芸人に連れられて各地を旅してまわり、ちょいと猥らであやしげな踊りで稼ぐという主人公の少年チイの境遇にもかかわらずほとんど陰惨さを感じることなく、逆にある種の愉快さすら帯びているところが好もしい。

 日清戦争前の筑豊・直方地方で実際にあった炭鉱をめぐる抗争を基底にフィクションを交え、少女に扮した美少年がその度胸と機知で大の大人を手玉に取ってしまう様は痛快そのもの。痛快無比な大団円を期待して読んだものの、ラストはちょっと肩透かしをくらった感がある。ひょっとして未完のまま終止符が打たれたか。