佐々陽太朗の日記

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『少女は鳥籠で眠らない』(織守きょうや:著/講談社文庫)

2022/05/31

『少女は鳥籠で眠らない』(織守きょうや:著/講談社文庫)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

15歳の少女に淫行をしたとして21歳の家庭教師が逮捕された。 家庭教師は示談条件である接近禁止を拒否し、起訴は免れない状況に。困惑する新米弁護士の前に現れた被害者少女は、弁護士を振り回し予想も出来ない行動に出る。法と対峙して生き抜く者たちを、 現役弁護士が感動的に描く連作リーガル・ミステリ!

目次
黒野葉月は鳥籠で眠らない
石田克志は暁に怯えない
三橋春人は花束を捨てない
田切惣太は永遠を誓わない

 

 

 初めて読む作家さん。名前も知らなかった。しかしリーガル・ミステリで人気急上昇中とあらばまずは読んでみなければなるまいと購入。買って良かった。

 弁護士2年生の木村龍一を主人公にした連作ミステリであるが、リーガル・ミステリによくあるように法廷での場面はない。作者織守氏自身、現役の弁護士さんだけあって、法律の抜け穴というか素人が「へぇ~そうなんだ」と思うような意外な事柄が生かされている。

 4編の短編によって構成されているのだが、やはり表題に使われた「黒野葉月は鳥籠で眠らない」がイイ。(以下、ネタバレ注意) 弁護の対象は家庭教師先の15歳の少女に「淫行」したとして逮捕・拘留された、21歳の大学生・皆瀬理人。娘に金輪際近づかないと約束すれば示談にするという被害者の両親の意向を伝えたが青年は首を縦に振らなかった。そして淫行の被害者とされる少女の「私の、片想いだった」との言葉。それでも児童福祉法違反は成立してしまう。つまり前科がついてしまうのだ。それにしても黒野葉月という少女のキャラクターの強烈だったことよ。想いを遂げるために行動を全くためらわない。そこにいっさいの迷いも恥じらいといったじゃまなものがないのだ。「一途」、そう、この少女の心は純粋に一途である。強烈すぎて最初は引いてしまうほどだったが、少女の人となりがだんだん明らかになるにつれ思い入れが出てきたから不思議である。ついには私も少女の片想いを応援してしまった。そしてこの物語の肝。皆瀬理人の気立てが物語の最後に明らかになる。これがキュンキュンしてしまうんだなぁ。まことにあっぱれ。

 新米弁護士・木村の目で事実が明らかになっていくにつれ、この事件の印象がだんだん変わってきて、終いには本質的に違うものになってしまうという筆致の見事さ。リーガル・ミステリを読んでいた読者が、いつのまにかラブストーリーを読んでいたのだという転回に、「あぁ、やられた」と思ったのは私だけではないだろう。

 他の三編、石田克志、三橋春人、小田切惣太、それぞれ皆、自分の強い意志と目的を持つ。その目的を遂げる方法に必ずしも同意できないところがある。しかし動機には全く共感できる。読後感は爽やか。続編を待つ。