佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『頭にくる虫のはなし ヒトの脳を冒す寄生虫がいる』(医学博士・西村謙一:著/技報堂出版)

2022/06/27

『頭にくる虫のはなし ヒトの脳を冒す寄生虫がいる』(医学博士・西村謙一:著/技報堂出版)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

人体寄生虫としては、皮膚、消化器、肺等の部位に寄生するものは比較的よく知られているが、脳、脊髄など中枢神経に寄生し、時には致死的障害を起こす寄生虫の存在はあまり知られていない。本書では、これら「頭にくる虫」の種類、発見の経緯、発育史、感染経路などについて、実例別に平易に記述。【内容】人体寄生虫とは/アフリカ睡眠病とシャーガス病/脳にもくる赤痢アメーバ/脳肺吸虫症の発見/トキソプラズマ症/中枢神経で発育する広東住血線虫/中枢神経顎口虫症 等30話

 

 

 別に寄生虫に特段の興味があったわけではない。また本書は医学博士・西村謙一氏が真剣にお書きになった学術書で、決してふざけたものではない。つまり私が読むような本では無いのだ。ではなぜそんな本を読むことになったのか。椎名誠氏のせいである。先日読んだ椎名氏のエッセイにこの本のことが出てきて興味を持ってしまったのだ。といっても学術的な興味では無い。椎名氏のエッセイに書かれていたこと、それは例えば「ナイル川周辺に暮らす少女の腕に水疱が出来た。少女が選択をしていると水に浸かった水疱が破裂して、そこから白い雲のようなものが湧き出してきた。その後、白い糸のようなものが傷口からくねりだしてきた。少女は不気味にうごめいている糸を気味悪くただ見つめることしかできなかったが、近くにいる老婆がその糸を慎重につまんでひっぱりだし近くに落ちていた小枝に巻き付けながら少女に言った。毎日この虫を1インチずつ引っ張り出してこの枝に巻き付けなさい。ムリをして引っ張ってちぎれたら酷いことになるから注意しなさい、と。少女がその虫を抜ききるまでに何週間もかかった。その白い糸のようなものは寄生虫で、最初に水疱がやぶれて出てきたのは何十万個もにものぼるその虫の幼虫であったのだ」といった話であり、あるいは「ある日、全身の皮膚にエンドウ豆ぐらいのできものが出来た女性が入院した。できものを切開すると大量の膿とともに白い虫のようなものが出て来た。またそうした寄生虫の中には脳に侵入するやつもいる」といった話であった。それこそ一度聴いてしまったら、脳に住みつき二度と忘れられないようなおぞましさなのだ。そんな話、聴きたくない、読みたくないと思いながらも図書館にあった本書を借り、もう一冊『寄生虫のはなし』(ユージン・H・カプラン:著/青土社)はamazonで買ってしまった。「怖いもの見たさ」というやつである。考えてみれば、私は少年の頃、動物図鑑の中にあったヘビやらカエルの気持ち悪い写真をときどき見返さずにはいられない子であった。何度見ても気味悪く、二度と見たくないと思っていたのに、ひと月ほど経つとどうしても気になってまた見てしまい、その都度見なければ良かったと後悔したものである。特に「ピパピパ」というかわいい(?)名のカエルの写真とその生態はけっして忘れられない。そのカエルの背中にはたくさんの穴があって、その穴のひとつひとつには卵が入っていて、その卵がふ化すると・・・・、あぁ、思い出す度に吐き気がする。今夜は怖い夢にうなされそうだ。もしこのブログを読んで気になる方があれば、ぜひインターネットをググってみていただきたい。ただし、その結果に私は責任を持てない。覚悟を持って写真その他を見ていただきたい。
 話が変な方向に行ってしまった。本書『頭にくる虫のはなし』に話をもどそう。本書はれっきとした医学博士によって書かれた学術書であって、決して面白半分のものではない。著者・西村謙一氏はこの本の中で「23 広東住血線虫を追って」に次のように語っていらっしゃる。

「もし、経済的に生活を保障され、完全に自由な時間をもつことができれば、どのようにしてすごそうか」と、誰もがこんなことを考えることがあるでしょう。私なら、ネズミとりパチンコをたくさん入れたリュックサックを担いで、日本全国、いや世界中を、ネズミをとりながら旅をしたいと思います。ネズミをとって、広東住血線虫に出会う感激を味わいたいと思います。このようなことを考えるだけで、私の血潮はたぎります。

 本気の方です。まさに生涯をかけて全身全霊で寄生虫を追い求め、研究していらっしゃる方のようです。私のように「自転車を携えて日本全国、いや世界中を旅したいと思います。地元の人が通う居酒屋でその地ならではの肴と酒に出会う感激を味わいたいと思います。そう考えるだけで、私の血潮はたぎります」などと言っている輩とは出来が違います。そのような方が書いていらっしゃるからには、本書に書かれたことはほぼ事実に即していると考えて良さそうです。「生きている人間の全身が虫だらけになって死亡するなんてことが本当にあるのか」、「どこかから人の体内に侵入した寄生虫が脳や眼球に寄生することなど果たしてあるのか」と半信半疑で読んだのだが、どうやら本当のことらしい。

 人体寄生虫は皮膚、皮下、消化管や肝臓などの腹の中の臓器、肺臓などの胸の中の臓器、眼球、脳、脊髄など様々の部位に寄生するという。どこに寄生されるのも真っ平御免だが、中でも眼球、脳、脊髄に寄生されたらいったいどうなるのだと恐ろしい。本書によると中枢神経を障害する人体寄生虫だけでも四十数種もあるという。寄生虫の宿主を生食しないこと、流行地で生水を飲まないことが大切だとのこと。ヘビやカエルを食べたいとは思わないが、沢ガニやモクズガニなども感染源になるとのこと。滅多に食べることはないだろうが、もし食べるとしても十分に火を通したものしか食べないこととしよう。豚、猪はもちろん十分火がとおっているのを確認して食べたい。危険はないのかもしれないが、本書を読んだ今、他の肉類についても生で食べようという気は失せた。とてもそんな気にならない。あな恐ろしや。

 さあ、次は『寄生虫のはなし わたしたちの近くにいる驚異の生き物たち』(ユージン・H・カプラン:著/青土社)を読もう。だが、すぐに読むのはよそう。刺激が強すぎる。良質のミステリかSF、あるいは時代小説を読んで、頭の中をある程度健全にしてからでないとおぞましい話にとても対峙できるものではない。