佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『夜明けのM』(林真理子:著/文春文庫)

2022/07/16

『夜明けのM』(林真理子:著/文春文庫)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

パリ、ネパール、マカオと世界中を飛び回り、ラグビーW杯を生観戦。イケメン政治家の結婚を斬り、ビットコインの300倍の値上がりを夢見る…だが今回のハイライトは、何と言っても天皇陛下即位の礼への参列。新時代の夜明けに、マリコが見たものは何か?巻末に柴門ふみとの特別対談「瀬戸内寂聴先生に教わったこと」収録。

 

 

 

 林真理子氏は初読みである。お生まれが一九五四年というから、私より五歳年上。同年代でテレビなどマスコミでの露出が多かった方なので、若い頃から知っている。しかし読んでこなかった。ひとつはマスコミで触れた林氏の言行が私の心の琴線に触れることがなかったからだろう。けっして嫌っていたわけではない。ただ男の私にはやや感性が合わないところはあるように思う。有名な「アグネス論争」も、どちらかと言えば林氏側に加担したい気分ではあったものの、「お節介な人だな」という感想をもったことも否めない。

 では何故本書を読んでみようと思ったか。それはなんだかんだ言って、やはり気になる存在であったからだ。一九八六年に『最終便に間に合えば』『京都まで』で第94回直木賞を受賞なさったとき、ちょっと読んでみようかと思ったこともある。その時は同時受賞であった森田誠吾氏の『魚河岸ものがたり』を読んで、林氏のほうまで手が伸びなかった。もう少しのところだったのに。ところが最近、林氏は日本大学の理事長になられた。そうなると林氏がいったいどんな方で、どんな考え方をなさるのかが気になる。じゃあ何か一冊読んでみるかと本書を選んだのである。

 本書に収められたエッセイは『週刊文春』二〇一九年一月一七日号~二〇二〇年一月二九日号に掲載されたもの。『週刊文春』におけるこの連載のエッセイ(「今宵ひとりよがり」「今夜も思い出し笑い」「マリコの絵日記」「夜ふけのなわとび」)は二〇二〇年七月二日時点で通算連載回数が1655回に達し、「同一雑誌におけるエッセイの最多掲載回数」としてギネス世界記録に認定されたという。「今宵ひとりよがり」の連載が始まったのは一九八三年八月四日だというから、気が遠くなるほど長い間続いている連載である。ちなみに『週刊文春』には現在も「夜ふけのなわとび」が連載されており、昨日七月一五日号に「謎をとく」と題して1753回が掲載されたようだ。日大の理事長になられて、おそらくいくつか仕事を減らさざるを得ないだろうが、ギネス記録更新中のこの連載はぜひ続けていただきたいものだ。

 さて本書を読んだ感想である。読み始めてしばらくは思ったほど毒がなく肩透かしをくった感じであった。しかし、読み進めていくうちにジワジワと毒がにじみ出てくる。おそらく昨今の世情を考えて、書いたことがきっかけとなる炎上を避けるべく慎重を期していらっしゃるのだろう。しかしさすがは林氏、古くはあの「アグネス論争」に火を付けた方だけある。言わずにおられないご様子におもわず笑みがこぼれる。そうこなくちゃ。”れいわ新撰組”の某議員のこと、滝川クリステルさんがいつもスカしてる話、ご主人の悪口など、読んでいるこちらはおもわずニンマリしてしまう。ご主人のことをこき下ろしつつ赦し、なんだかんだ言って愛しておられるのだなとこちらに伝わってくるところなどほほえましい。こうしたテイストが長期に及ぶ週刊誌連載の秘訣だろう。そして見逃せないのが美智子上皇后への讃辞。林氏が思った以上に素直で良識のある方なのだと感ぜられて好もしい。