佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』(藤森かよこ:著/KKベストセラーズ)

2023/01/08

『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』(藤森かよこ:著/KKベストセラーズ)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

死ぬ瞬間に、あなたが自分の人生を
肯定できるかどうかが問題だ!

学校では絶対に教えてくれなかった!
元祖リバータリアンである
アイン・ランド研究の第一人者が放つ
本音の「女のサバイバル術」

 

ジェーン・スーさんが警告コメント!!
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これは警告文です。本作はハイコンテクストで、読み手には相当のリテラシーが求められます。自信のない方は、ここで回れ右を。「馬鹿」は197回、「ブス」は154回、「貧乏」は129回出てきます。打たれ弱い人も回れ右。書かれているのは絶対の真実ではなく、著者の信条です。区別がつかない人も回れ右。世界がどう見えたら頑張れるかを、藤森さんがとことん考えた末の、愛にあふれたサバイバル術。自己憐憫に唾棄したい人向け。  
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あなたは「彼ら」に関係なく幸福でいることだ。権力も地位もカネも何もないのに、幸福でいるってことだ。平気で堂々と、幸福でいるってことだ。世界を、人々を、社会を、「彼ら」を無駄に無意味に恐れず、憎まず、そんなのどーでもいいと思うような晴れ晴れとした人生を生きることだ。「彼ら」が繰り出す現象を眺めつつ、その現象の奥にある真実について考えつつ、その現象に浸食されない自分を創り生き切ることだ。
中年になったあなたは、それぐらいの責任感を社会に持とう。もう、大人なんだから。 社会があれしてくれない、これしてくれない、他人が自分の都合よく動かないとギャア ギャア騒ぐのは、いくら馬鹿なあなたでも三七歳までだ。(本文中より抜粋)

 

 

 本書が女性向けに書かれたことは題名からして間違いのないところ。題名にインパクトがあるので中身が気になったとしても普通は読まない。しかし私が共感するところが多いある政治学者が本書を褒めていらっしゃったので読んでみることにした。

「現代という時代は、ほとんどの人間に敗北感を感じさせる。現代という時代が人間に要求するスペックは高すぎる」 これは本書の「まえがき」の導入部に書かれた一文である。確かにそんな気がする。それ故かどうか定かでないが、世の中には敗北主義的なグチが満ちあふれているように見える。しかし本書の立ち位置はどうやら「グチ言ってんじゃねーよ! 政府だの社会だの人に頼ってねーで、自分で幸せを掴め!」というところのようです。いいじゃないですか。気に入りました。
 その立ち位置はひと言で云うと「お花畑に住むな」ということ。藤森氏の言葉では「現実と幻想をゴッチャにしないこと」だとし、この事に常に留意せよという。例として「カネがないのに、カネの合法的調達もできないのに、カネがないとできないことをしようとするな」という。つまるところ馬鹿でブスで貧乏で生きていかねばならない現実から目を背けることなく、現実主義者として生きよということだろう。偽善的な気休めなんぞ書かないという著者の態度は好もしいと私は感じる。
 Part1は苦闘青春期(三七歳まで)である。まず最初に「容貌」について書かれている。簡略にまとめると「人間は外見でなく中身だ」というのはファンタジー。中身を充実させるには時間がかかる。手のつけやすい外見の矯正のほうから処理すべき。まず「見やすくなる」ことを考えよという。事ほど左様に以下「仕事」「セックス」「運」などについてどう考えどのように生きるべきかが身も蓋もないほどはっきりと述べられる。そこに貫かれる考え方の基本は「世の中は不公平にできているということを、たとえ受け入れがたくても厳然たる事実として直視して現実的対処をせよ」ということ。中でも「国語力をつけよ。そのために本を読め」と「外国語をひとつ身につけよ」というのは至言であろうと思う。
 Part2は過労消耗中年期(六五歳まで)。まず身も蓋も無いことではあるが、人生の勝負はこの時期にさしかかるまでにほぼ決まっているという前提から入る。二〇代、三〇代(いやほんとうは子どもの頃から)どれだけ頑張ったかの結果が四〇歳以降に出るからである。しかしだからといってゲームオーバーではない。それでも生きていける。自分なりのゲームを粘り強く継続しよう。覚悟をあらたにせよというのがこの時期の生き方だと説く。「人生に突然の飛躍や覚醒はない」 現実とファンタジーをごっちゃにしてつまらぬ詐欺や宗教に騙されず、ただ目の前のすべきことに集中して地味に淡々と努力するしかない。恵まれた他人と自分を比較しても仕方がない。四の五の言わずに賃金労働に勤しめ。それほど己を鍛えてくれるものはない。あなたはあなたの人生を生きればよいという。そしてこの年代にあってもやはり本を読むことの重要性で締めくくられている。そしてその対象分野を拡げよと。
 さていよいよPart3は匍匐前進老年期(死ぬまで)である。著者はこの老年期こそ本気を出せ、最後の本気をという。これからの時代、高齢者は社会の大きな負担となる。もっとはっきり言えばみんなから邪魔にされるということ。特殊詐欺の餌食となる危険性も増す。また否応なしに直面する身体的老化への対処として身体メンテナンスが必要となるが、一番の問題は口腔と歩行だという。口腔の問題の一番は舌の位置だそうである。低位置にある舌を上口蓋にぴったり密着するよう鍛える必要があるという。ほんとうかな。検証してみる必要がありそうだ。そしてもう一点の歩行能力の保持。これはよく理解できる。それは身体の問題だが、頭のほうは読書や情報収集をさらに継続し学びなおせということである。それはその行為があなたを世界から切り離さないからだという。なるほど。老いたからといって世間に対し無責任になってはいけない。老いてはほんとうの意味の教養を持たねばならぬ。「ほんとうの意味での教養とは、多くの人々の努力で支えられ維持されている世界に対する愛と責任を感じることだ。教養とは、他者の生に対する想像力を持つことだ。他者に対して自分ができることは惜しまず実行し、自分にできないことや、してはいけないことは抑制することだ」 けだし至言というべきだろう。そしていよいよ最後の準備。断捨離、高齢者施設の検討、手配、孤独死の作法まで。老年期もやることがいっぱいだ。

 男の私にも肯けるところがたくさんありました。藤森氏の仰る「ほんとうの意味での教養」を身につけるべく、もう少し、いやもっともっと頑張らねばと己を叱咤した次第。