佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『帰郷』(浅田次郎:著/集英社文庫)

2023/01/19

『帰郷』(浅田次郎:著/集英社文庫)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

戦争は、人々の人生をどのように変えてしまったのか。帰るべき家を失くした帰還兵。ニューギニアで高射砲の修理にあたる職工。戦後できた遊園地で働く、父が戦死し、その後母が再婚した息子……。戦争に巻き込まれた市井の人々により語られる戦中、そして戦後。時代が移り変わっても、風化させずに語り継ぐべき反戦のこころ。戦争文学を次の世代へつなぐ記念碑的小説集。

第43回大佛次郎賞受賞作。

 

 

 終戦は戦争の終わりではない。死ぬまでその影響から逃れられない。本人は死んだら終わりかもしれないが、遺族にとっては悲しく苦しい記憶とともにいつまでも戦争を引きずって生きていかねばならない。幸運にも、あるいは逃げて逃げて逃げまくってなんとか生きて帰還してもまたそこには地獄が待っている。だからこそ戦争はしてはいけない。その言葉に嘘は無いし正しい。しかしだからといって、始まってしまった戦争にいくら個人が抗おうと、戦争はすべてを巻きこみけっして逃れさせてはくれない。そんな救いのない時代に翻弄された人間を描いた六編の短編集が本書である。

 私が良いなと思ったのは『歸鄕』と『夜の遊園地』。同じく浅田氏の短編集『鉄道員』に収められた『ラブ・レター』や『角筈にて』などもそうであったが、どうしようもない状況のなかにあってなお心の中にある消しがたい情、それはひたすら哀しいが哀しいがゆえに温かさを感じさせるものなのだが、それを人間らしいものとして描ききっている。読んでいつもボロボロに泣かされてしまう浅田マジックだ。読者は自分が流した泪で救われる。