佐々陽太朗の日記

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『時宗〈巻の壱〉乱星』(高橋克彦:著/NHK出版)

2023/02/16

時宗〈巻の壱〉乱星』(高橋克彦:著/NHK出版)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

内容(「BOOK」データベースより)
奥州藤原氏を滅ぼした源頼朝が鎌倉に幕府を開いてから五〇年、源氏に代わってその実権は北条一族の手に移っていた。第五代執権となった北条時頼は国のあるべき姿を求め、己れの信ずる道を突き進んでいく。だが、その頃、海を隔てた大陸の彼方からはかつてこの国が遭遇したことのない未曾有の危機が迫りつつあった…。
内容(「MARC」データベースより)
源頼朝が鎌倉に幕府を開いて50年、実権は北条氏の手へと移っていた。その一族をたばねる父・時頼が耳にした蒙古の脅威は、時宗が執権の座につく時、ついに現実のものとなる。2001年NHK大河ドラマ原作小説。

 

 

 高橋克彦氏は初読みである。友人がおもしろいと推してくれたのだ。多作の作家であり、ジャンルも多岐にわたるだけに、何から読むかずいぶん迷ったのだが本作に決めた。折しも先日朝日新聞の記事に「鎌倉幕府における外交の不在」などというふざけた記事が出た。どれほどふざけているかというと「元寇は日本の外交力がなかったから起こった」と言うのだ。馬鹿は休み休み言いなさい。ひとつは鎌倉時代のことを現代の価値観に当てはめて論じる愚。ふたつには話合いに応じていれば戦をせずに元の属国にならずに済んだというのかということ。「防衛力の前に外交力」と言いたいのだろう。しかし、戦争が嫌なら属国になれとせまる大国に「No!」と言っただけではないか。近代、現代においてすらウィグルが中国に支配され、ウクライナはロシアに侵略されているのである。元という大国が小国日本を見下して朝貢関係を迫ってきたのを良しとせず跳ね返したことを外交力がない馬鹿げた行為だなどと、先人を貶めるにもほどがある。この記事については岩田温氏のYouTube動画に詳しいのでそちらへのリンクを貼っておく。

www.youtube.com

 

 少々熱くなってしまった。だがあまりに腹立たしいので私は『時宗』読んでやるのだ。

 さて本書を読んだ感想である。まず私は本書を「2001年NHK大河ドラマ原作小説」だと知らずに読み始めた。大河ドラマの脚本は井上由美子氏によるものだが、高橋克彦氏は脚本と並行して執筆したようだ。なるほど、道理で会話中心に場面が展開していくわけだ。小説としてはやや違和感がある。またドラマであるから必ずしも史実に忠実というわけでもないだろう。

 ただおもしろい。とてつもなくおもしろい。まだ全四巻あるうちの〈巻の壱〉。時宗の父である時頼が兄・経時から執権を譲り受け、宮騒動宝治合戦を経て地位を固めて行き、二人目の子として時宗が生まれるところまでが描かれている。権謀術数の数々、そして武士としての誇りをかけた戦い。物語はまだまだ序盤だが存分に楽しめた。さっそく〈巻の弐〉を読むこととしよう。時宗がどんなふうに成長していくか、楽しみである。