佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『成瀬は天下を取りにいく』(宮島美奈:著/新潮社)

2023/04/28

『成瀬は天下を取りにいく』(宮島美奈:著/新潮社)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」
各界から絶賛の声続々、いまだかつてない青春小説!

2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。
コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。
M-1に挑戦したかと思えば、自身の髪で長期実験に取り組み、市民憲章は暗記して全うする。
今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、きっと誰もが目を離せない。
発売前から超話題沸騰! 圧巻のデビュー作。

 

 

 

 ウェブサイト『読書メーター』でたいへん人気が高く、出版社の紹介文や各界著名人の評価コメントが興味深かったので読んでみることにした。

 還暦を超えたジジイが今さら青春小説を読んでどうするとも思ったのだが、存外に愉しめた。その理由は主人公・成瀬あかりの強烈なキャラによるところが大きいと思う。私はかれこれ63年生きてきたが、未だかつてこのように独特で奇妙な魅力を持つ人間に会ったことがない。だからと言って全くいそうもないほど現実離れしたキャラクターではない。ではいったい成瀬はどういう子なのか。それが端的に表現された箇所があるので、その部分を引く。成瀬が滋賀県トップの進学校である膳所高校に入学した日のことである。なんと成瀬は丸坊主で登校してきた。そのうえ驚いたことに、新入生代表の挨拶を務めたのだ。以下は同じ中学校から進学したクラスメートの親との会話場面である。

「なんであかりちゃん坊主だったんだろうね」

 帰宅するなり母が言った。母の言い方は決して成瀬をバカにしているわけではなく、純粋に疑問に思っているようだった。わたしも「なんでだろうね」と相槌を打つ。

「あかりちゃん昔からちょっと変わった子だったよね。なんだっけ、けん玉で大津市チャンピオンになったんだっけ?」

 昨年の秋、ぶらんち大津京でもしかめの回数を競う大会が行われた。成瀬は四時間過ぎても玉を落とさず、主催者側が成瀬を止めてチャンピオンの称号を与えたという。私はおうみ日報で読んだだけだが、困惑する大人たちの様子が目にうかぶようだった。

「お母さんは普通の人なのにねぇ」

 わたしは「そうだね」と応えて自室にこもる。普通ってなんだろうとはさんざん問われてきたテーマだが、目立たないことを普通と呼ぶのなら、成瀬は普通じゃない。

「目立たないことを普通と呼ぶのなら、成瀬は普通じゃない」 この物語においてこの言葉は重要だ。「目立たないこと」は別の言い方をすると「周りと同じ」あるいは「周りに合わせる」ということだろう。成瀬にはそうした感性がまったくない。そうした感性が欠落しているというよりは、彼女の中にそうすべきだと考える必要性がまったく見いだせないのだろう。彼女には彼女の論理があり、ルールがあり、正義があるのだ。そしてそれらはまったく公序良俗に反していない。それどころか論理的に至極真っ当であり、論理に従えば、仮に彼女が周りから浮いていようとも、それは周りがおかしいのであって、彼女が周りに合わせなければならない理由などないのである。日本人の特性でもある同調圧力埒外に彼女はいる。そうした有り様だから学校において彼女は孤立している。それは彼女がはみ出し者だからではなく、まさしく真っ当過ぎるからである。能力もありすぎる。いや「ありすぎる」というのは変だ。悪いことではないのだから、抜きん出ていると言うべきだろう。小学校、中学校をとおして各種コンクールの賞を総なめし、高校は膳所高校へ進学した。こうした子が周りから浮いてしまう、孤立してしまう、「変だ」という目で見られてしまうのが日本の変なところ。日本においてギフテッドが生きづらいといわれるのも、そうしたことの証左だろう。頭が良くても悪くても生きづらいのが日本社会。天才を被害者にしかねないのがこの日本という社会、「平等バカ」の社会である。そんな世間を屁とも思わず、堂々と己の信ずる道を迷わず突き進むのが成瀬あかりという女性であり、それがなんとも痛快なのだ。何らかの能力に抜きん出た各界の名士が本書に対し絶賛のコメントを寄せているのも、そうしたところがあるからだろうと思う。

 本の帯にあるそうした賞賛コメントを引いておこう。

西川貴教さん
 こんなにも『滋賀滋賀』してていいんですか? いいんですね? ありがとうございます!
 
 ・三浦しをんさん
 青春は琵琶湖の形をしている。真円ではないが広々として楽しく、切ないほどにきらめいているのだ。
 
 ・辻村深月さん
 自分が人生のどこかで別れてきた「どこか」「何か」が共鳴する、いとおしい青春小説。
 
 ・友近さん
 迷うことなく推せる小説。成瀬はこんなに面白いのに、業界人って見る目ないんやな! と思わず感情移入してしまった。
 
 ・東村アキコさん
 甘酸っぱくもない、エモくもない、こんな女子中学生爆走物語を私は待ってました!!!
 
 ・Aマッソ・加納愛子さん
 成瀬になりたくて、なれなかった。だから芸人になった。
 
 ・石田衣良さん
 新しい滋賀小説の誕生! 成瀬はいい子だから、天下を取って、二百歳まで生きてほしい。
 
 ・柚木麻子さん
 可能性に賭けなくていい。可能性を楽しむだけで人生はこんなにも豊かになるのか。
 
 ・南沢奈央さん
 もうファンです! 私も成瀬あかり史の証人になりたい!
 
 ・村井理子さん
 読めば景色が一変する。青い湖面が美しく光る大津港に、成瀬を探しに出かけたい。
 
 ・瀧井朝世さん
 心してページをめくってください。成瀬の魅力に心臓を撃ち抜かれます。
 
 ・吉田大助さん
 出会えたことが人生の奇跡。成瀬がそうだ。この本がそうだ。死ぬほど元気になれます。