ウェルズの日記

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『口入れ屋おふく 昨日みた夢』(宇江佐真理・著/角川文庫)

『口入れ屋おふく 昨日みた夢』(宇江佐真理・著/角川文庫)を読みました。

まずは出版社の紹介文を引きます。

痛快、江戸のお仕事小説!

亭主の勇次が忽然と姿を消し、実家の口入れ屋「きまり屋」に出戻ったおふく。色気より食い気、働きもので気立てのよいおふくは助っ人女中として奉公先に出向き、揃いもそろって偏屈な雇い主たちに憤慨したり同情したり。一筋縄ではいかない人生模様を目の当たりにするうち、自分も前を見て歩いていこうと心を決める――。市井人情小説の名手が渾身の筆で描ききった江戸のお仕事小説。単行本未収録の短篇「秋の朝顔」併録。

 

口入れ屋おふく 昨日みた夢 (角川文庫)

口入れ屋おふく 昨日みた夢 (角川文庫)

 

 

 宇江佐真理さんがお亡くなりになって早一年が経つ。乳癌と闘いながらこれを書いていらっしゃったらしい。宇江佐さんといえば「髪結い伊三次」シリーズだが、それを書きながら、この「口入れ屋おふく」も書いていらっしゃったとは。ものすごいパワーである。

 宇江佐さんをそこまで駆り立てるもの、それが読者からの応援なのか、宇江佐さんの頭の中に住むキャラクターが書いてくれとせがむのか、困難を克服するチャレンジ精神なのか、それともただただ書くことがお好きなのか、わたしには分からない。でも、宇江佐ファンにとって、それはとてつもない僥倖である。宇江佐さんは本書の中で次のような場面を書いていらっしゃる。それはある商家の主夫妻もその家族も留守になったある夜、鬼の居ぬ間に洗濯とばかりに女中たちが台所で車座になり酒盛りを始めるという場面だ。臨時で手伝いに入っていたおふくはそれを見て心底呆れる。このあたりに宇江佐さんの仕事に対する姿勢が現れていると思うのだ。無責任でいい加減な仕事はしない。それが職業人としての誇りだというお考えのように思える。であれば、宇江佐さんはたとえ病を得ても作家として日々を過ごされたのだろう。

 本書を読んで、宇江佐さんは人の品性を問うていらっしゃるように感じた。その人の品性が仕事に対する姿勢に現れる。あるいは妻や母親、使用人など人に対する姿勢に現れる。私は常々「口で言っていることは建前であって、本音はその人のやっていること、行動に現れる」と考えている。その意味でも宇江佐さんの凜とした晩節を心から礼讃するものである。

 宇江佐さんが主人公おふくにどのような幸せを用意していらっしゃったのか、今となっては知る由もない。しかしおそらく宇江佐さんは常に誠実に仕事をするおふくにとびきりの幸せを用意していらっしゃったに違いないのだ。それを読むことが出来ないのがなんとも悔しい。