佐々陽太朗の日記

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『竈河岸 髪結い伊三次捕物余話』(宇江佐真理・著/文春文庫)

『竈河岸 髪結い伊三次捕物余話』(宇江佐真理・著/文春文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

町奉行所同心の小者を務める髪結い職人の伊三次を主人公に、オール讀物新人賞受賞以来、二十年近く著者が書き続けた人気作最終話。北町奉行所同心の小者を務める髪結い職人の伊三次を主人公に、オール讀物新人賞受賞以来、二十年近く著者が書き続けた人気作最終話。 

息子を授かった町方同心・不破龍之進は、仲間の反対を覚悟しつつある決断をする。一方、貴重な絵の具を盗まれた伊与太は、家族にも知らせず江戸を離れ―髪結いの伊三次と深川芸者・お文の恋から始まった大傑作シリーズ、感動の最終巻。子供を育み、年をとる。こうして人の世は続いてゆく。(『擬宝珠のある橋』収録)

 

竈河岸 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
 

 

 ついに読み終えてしまった。シリーズ第15作目、これが最終巻である。といっても宇江佐さんが最終巻として書かれたのではなく、お亡くなりになってしまったので結果としてもう次作を読むことができなくなったのだ。本書の中にシリーズ第16作目となるはずだった『擬宝珠のある橋』が収められている。宇江佐さんのご命日は2015年11月7日である。北町奉行所同心の小者を務める髪結い職人の伊三次と深川芸者・お文の恋から始まった物語は、いつしか伊三次が仕える北町奉行定廻り同心の不破友之進とその妻・いなみの物語になり、さらにその息子・不破龍之進とその妻・きいの物語になり、さらに不破友之進の娘・茜と伊三次・お文の息子・伊与太の物語ともなる形で広がりを持っている。第一作『幻の声』で25歳であった伊三次も40歳代半ばの歳となった。

 伊与太と茜がどのように生きていくのか、龍之進ときいがどのように連れ添っていくのかをもっと読みたかったのだがそれも叶わない。残念だが本作が未完の最終巻と了見するほかない。人とは、人の人生とはそのようなもので、一人ひとりの人生はけっして完結することのない物語だ。

 宇江佐さんの作品は文庫化されたものだけでおそらく70作を超える。そのうち私はまだ30作ほどしか読んでいない。これから少しずつ読んでいくことになるだろうが、いつすべてを読み終えることができるだろう。未読本を残したまま死んでしまうこともありうるだろう。それも仕方ないことと了見するしかないのだろう。

 本書読了をひとつの節目として、天国にいらっしゃるであろう宇江佐さんに素晴らしい物語をありがとうございましたとお礼を申し上げたい。