佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『ひゃくはち』(早見和真:著/集英社文庫)

2024/12/31

『ひゃくはち』(早見和真:著/集英社文庫)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

地方への転勤辞令が出た青野雅人は、恋人の佐知子から意外なことを打ち明けられた。付き合い出すずっと前、高校生のときに二人は出会っていたという。彼は、甲子園の常連・京浜高校の補欠野球部員だった。記憶を辿るうち―野球漬けの毎日、試合の数々、楽しかった日々、いくつかの合コン、ある事件、そして訣別。封印したはずの過去が甦る。青春スポーツ小説に新風を注いだ渾身のデビュー作。

 

 舞台は高校野球。なにをかくそう私は高校野球が大嫌いである。主催しているA新聞、M新聞、K野連、名前を聞くだけで虫酸が走る。ならばなぜ、本書を読んだのか。著者が早見和真氏であるからだ。

 今年11月に初めて早見氏の小説を読んだ。『店長がバカすぎて』である。ユーモア小説として、お仕事小説として、存分に楽しんだ。ツボにはまったと言って間違いない。当然の成り行きとして続編『新!店長がバカすぎて』を今月の中旬に読んだ。さらにハマった。その勢いで『ザ・ロイヤルファミリー』を読んだ。「店長がバカすぎて」シリーズとはテイストが違う小説であったが、これまたすごく良かった。もうこうなったら他の作品も読まずにいられない。『イノセント・デイズ』を読んだ。これは本当に早見氏の小説なのか? と疑うほど作風の違う小説に感じられた。しかし、これはこれですごく良い小説だった。ここまで読んできて、早見氏はいろんな抽斗を持っていて、それぞれで読者を楽しませるだけの力を持つ作家だということがわかった。これはもう、早見氏の既刊本すべてを読まねばなるまいと思い定めて本書『ひゃくはち』と『小説王』を買った。まず昨日から『ひゃくはち』を読み始め、先程読み終えた。

 大嫌いな高校野球を扱った小説なのに、本書『ひゃくはち』は意外にも私の琴線に触れる小説であった。特に主人公の父が良い。図らずも2度ほど目頭を熱くしてしまった。高校野球を扱った小説でこれほど熱くなったのは『イレギュラー』(三羽省吾・著/角川文庫)以来のことだ。

 題名の『ひゃくはち』は野球公式球の縫い目の数。著者はかつて高校球児だったという。そうするとこの物語は著者の原点とも言える。年明けには同じく早見氏の『小説王』を読もうと思っている。『ひゃくはち』が早見氏の原点なら、『小説王』はその後の早見氏なのかもしれない。どんな物語か、読む前からワクワクする。

 今日は大晦日。『ひゃくはち』は除夜の鐘の数。それは煩悩の数でもあるらしい。大晦日にふさわしいよい小説を読みました。