2026/06/12
『父親たちにまつわる疑問 ”ALIEN QUARTET"』(マイクル・Z・リューイン:著/武藤陽生:訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)を読んだ。
まずは出版社の紹介文を引く。
名匠マイクル・Z・リュ―インの代表作
私立探偵〈アルバート・サムスン〉シリーズ
待望の最新作登場!
私立探偵アルバート・サムスンの事務所にやってきた奇妙な青年。話によると彼は「地球外生命体と人間のハーフ」で、最近部屋に空き巣に入られ、宇宙人の父から贈られた貴重な石を盗まれたのだという。その調査を頼まれたサムスンは渋々ながら引き受けるが――新米警察官として奮闘中の愛娘サムの力を時には借りつつ、ユニークな事件の数々を探偵サムスンが解き明かす。待望の連作集。解説/吉野仁

久しぶりのアルバート・サムスンものである。それもそのはず、2021年11月に読んだ『眼を開く ”Eye Opener"』(2004年刊行)の後、シリーズ続編が発刊されなかったのだから。私自身、もう続編は書かれないものと考えていた。その寂しさを埋めるために、アルバート・サムスンシリーズへのオマージュとして書かれた宮部みゆき氏の杉村三郎シリーズを読んだりもした。それがどうだ。なんと2022年9月にシリーズ最新刊である本書が刊行されていたのだ。うかつであった。しかしそれに気づくことができて良かった。
私立探偵アルバート・サムスンの魅力が凝縮された中編が四篇収められた連作短編集であった。原題”ALIEN QUARTET" は、直訳すると「エイリアン(地球外生命体)の四重奏」となるだろうか。物語は自称・宇宙人(地球外生命体)と人間のハーフを名乗るレブロンという風変わりな男からの依頼で始まる。宇宙人の父親から贈られた石が盗まれたというのだ。決して探偵小説からSF小説に転向したのではない。依頼者レブロンは変わり者だが、ごく地味な一般市民。サムスンはいつもながらの銃を持たず、酒もたばこもやらず、マッチョでもない草食系知性派探偵である。そうこなくては。四篇を通じて「父親」と「家族」をテーマとする温かくもほろ苦い話は実に味わい深い。サムスンの愛娘サム(サマンサ)が駆け出しの警察官として登場しており、父娘の関係性にも心あたたまる。
武藤陽生氏の訳も良い。作中、気に入った言い回しが随所にあった。試しにふたつほど引いて、AIに原文の言い回しを調べさせた。AIは良く間違った答えを返すので、原書にあたってみないと本当かどうか分からないが、以下のような回答であった。
「いじめっ子への対処方法はひとつしかない。立ち向かうことだ。」(本書187P)
"There is only one way to deal with a bully," I said. "Stand up to them."
「フィッツが我々の好意を踏みにじったとわかったとき、署長はふたつの選択肢を与えました。デルファイから出ていくか、もしくはデルファイから出ていくか。」(本書271P)
"When the Chief realized Fitz had abused our hospitality, he gave him two choices," she said. "Leave Delphi, or leave Delphi.
どうでしょう。どちらも如何にもハードボイルドらしい気の利いた言い回しではないでしょうか。一つ目には人としての矜持があり、二つ目にはユーモアがある。小説を読むには日本のものに優るものはないが、それでもこんな言い回しに出会うと洋書を翻訳したものもなかなか良いものだと思えます。
シリーズに読み残しがないかどうか気になり、これもAIに「日本で出版されているアルバート・サムスンものをリストアップして」と訊ねてみた。帰ってきた答えは以下のとおりであった。
日本国内でこれまでに翻訳・出版されたマイクル・Z・リューインの「私立探偵アルバート・サムスン」シリーズの作品リストです。
長編8作、連作短編集1作、そしてスピンオフ・関連作が国内紹介されています。出版はすべて早川書房からで、当初はポケミス(ハヤカワ・ミステリ)やハヤカワ・ミステリ文庫で順次刊行されました(2022年の生誕80周年には一部名作の新版や新刊も出ています)。
アルバート・サムスン・シリーズ(主役作品)
長編の多くは1970年代〜1990年代にかけて翻訳されましたが、近年になって後年の長編や短編集が追加で翻訳されています。
# 邦題 原題(発表年) 日本での初訳・刊行形態
- 『A型の女』 Ask the Right Question (1971) ポケミス(1978)/ハヤカワ文庫
- 『死の演出者』 The Way We Die Now (1973) ポケミス(1978)/ハヤカワ文庫
- 『内なる敵』 The Enemies Within (1974) ポケミス(1980)/ハヤカワ文庫
- 『沈黙のセールスマン』 The Silent Salesman (1978)
ポケミス(1985)/ハヤカワ文庫 ※2022年に**〔新版〕**文庫が刊行
- 『消えた女』 Missing Woman (1981) ポケミス(1986)/ハヤカワ文庫
- 『季節の終り』 Out of Season (1984) ポケミス(1989)/ハヤカワ文庫
- 『豹の呼ぶ声』 Called by a Panther (1991) ポケミス(1993)
- 『眼を開く』 Eye Opener (2004) ポケミス(2006)
- 『父親たちにまつわる疑問』 Alien Quartet (2018) ハヤカワ文庫(2022) ※連作短編集
全て読んでいる。安心した。ただ、『アルバートのリスト "Albert's List”』という短編が『ミステリマガジン』2022年9月号(特集内容:「マイクル・Z・リューイン生誕80周年記念特集」)に掲載されているという。さっそく古書ではあるがバックナンバーをAmazonで見つけ、ポチッとしたのは言うまでもない。