佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『ジェネラル・ルージュの凱旋 / 海堂尊(著) 』(宝島社文庫)


ジェネラル・ルージュの凱旋 』を読みました。昨年11月下旬に『ナイチンゲールの沈黙』を読んだので2ヶ月ぶりに田口・白鳥コンビのめくるめくメディカル・エンターテイメントを堪能しました。本作はシリーズ第3弾ということになる。読んでみると前作『ナイチンゲールの沈黙』と事件が同時進行していることがわかる。書き手ががR・Dウィングフィールド(フロスト・シリーズ)なら一つの小説中で同時進行させヒッチャカメッチャカにしているところだ。

能力があるが控えめで癒し系キャラの不定愁訴外来担当医師・田口公平、"火食い鳥"の異名を持つロジカルモンスター厚生労働省大臣官房秘書課付技官兼医療過誤死関連中立的第三者機関設置推進準備室室長・白鳥圭輔、その白鳥の唯一の部下「氷姫」こと姫宮(厚生労働省大臣官房秘書課付医療技官兼医療過誤死関連中立的第三者機関設置推進準備室室長補佐)、食えない狸オヤジ・高階病院長、隙のない論理展開ながら中身は空疎な沼田精神科助教授、利潤性が全ての判断基準・三船事務長、ICUの爆弾娘・如月翔子と、とにかく濃いキャラが登場。しかもそれぞれのキャラが魅力的で生き生きしているのがこのシリーズの最大の魅力だ。そして本篇の主人公的存在、人呼んでジェネラル・ルージュ(血まみれ将軍)こと独立行政法人旧国立大学連絡機構東城大学医学部付属病院救命救急センター部長・速水晃一がカッコイイ。シリーズが進むごとに主人公を取り巻くキャラクターがますます愛すべきものになって輝きを増していくあたり、まさにシリーズものの醍醐味と言える。
本作では国が行財政改革の中で進めてきた大学病院の独立行政法人化とその施策によって要求されることとなった大学病院の採算性の問題に絡むお話である。そもそも医療(とりわけ救命救急医療)に採算性など求めて良いのかどうか。これに対しジェネラル・ルージュ(血まみれ将軍)速水晃一は明快な答えを持つ。医療の現場に採算性だの倫理だの、そんなものは無い。あるのはただ目の前にある患者という現実だけだ。
速水は言う。
「行動には危険がつきまとう。行動しない口舌の輩がよってたかって行動する人間を批判する。いつからこの国はそんな腰抜けばかりになってしまったんだ?」
「倫理問題ばかり声高に言い募る人間は、自分自身は何も創れない。やれるのは他人のあら探しだけ」
よくぞ言ってくれた、ジェネラル。そういえば昔は「薩摩の教え」のような価値判断があったのだが、昨今は小賢しい評論家が幅をきかせているようで・・・

『男の順序』
 一、何かに挑戦し、成功した人
 二、何かに挑戦し、失敗した人
 三、自分では挑戦していないが、挑戦する人を手助けした人
 四、何もしない人
 五、何もしないで、他人の批判だけをする人
                     ~薩摩の教えより~