佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

ラ・パティスリー

 強い自己主張はしないが、食べる人を優しく包み込むようなおいしさが広がる――それがロワゾ・ドールの菓子の特徴だった。子供から大人まで誰もが手軽に食べられて、ゆったりと優しい気分になれる……。流行の最先端をゆくシャープで尖った部分はないが、おっとりと豊かで上品な味わいがある。それは、何年たっても変わることなく笑顔で自分を迎え入れてくれる友人や、もてなしの行き届いたホテルの安心感に似ていた。
                                     (本書P51より抜粋)

 

 

『ラ・パティスリー』(上田早夕里・著/ハルキ文庫)を読みました。

 

 

裏表紙の紹介文を引きます


森沢夏織は、神戸にあるフランス菓子店“ロワゾ・ドール”の新米洋菓子職人。ある日の早朝、誰もいないはずの厨房で、飴細工作りに熱中している、背の高い見知らぬ男性を見つけた。男は市川恭也と名乗り、この店のシェフだと言い張ったが、記憶を失くしていた。夏織は店で働くことになった恭也に次第に惹かれていくが…。洋菓子店の裏舞台とそこに集う、恋人、夫婦、親子の切なくも愛しい人間模様を描く、パティシエ小説。大幅改稿して、待望の文庫化。



上田早夕里氏の小説は初読みです。
ウィキペディアによると


上田早夕里(うえださゆり、1964年 - )氏、日本の小説家。兵庫県神戸市出身。姫路市在住。神戸海星女子学院大学卒業。日本SF作家クラブ宇宙作家クラブ日本推理作家協会会員。
2003年『ゼリーフィッシュ・ガーデン』が第3回小松左京賞最終候補。2004年、テラフォーミングされた火星を舞台に奇妙な事件に巻き込まれた治安管理担当官の活躍を描いたSFサスペンス小説『火星ダーク・バラード』にて第4回小松左京賞を受賞しデビュー。その後はパティシエを主人公に据えた「洋菓子シリーズ」など、SF以外のジャンルも執筆、幅広い活動を行っている。
2010年に発表した『華竜の宮』が、『SFが読みたい! 2011年版』のベストSF2010投票において、国内篇1位となる。


とある。
姫路市に住みながら知らなかったとは……、不明を恥じております。
さて、本書『ラ・パティスリー』についてですが、ミステリーかと思って読み始めたのですが違っていました。ではラブ・ストーリーかと思えば、そうでもないのです。確かにラブ・ストーリー的要素もあるのですが、読み終わった印象は意外にもパティシエの真面目な成長物語。書き方として恋物語とすることも可能だっただろうし、あるいはパティシエとしての成功物語に仕立てることも可能であったはず。しかし、そのような劇的な展開を見せることなく終わっている。読み手としては、一つの作品としてもう少し盛り上がりが欲しかった気がする。著者のHPを見て判ったのだが、近く続編が出版されるらしい。山場はシリーズ第二弾で用意されているのかもしれない。本書の値踏みは第二弾を読んでからとしようと思います。
 ということで、もちろん後日、続編を読もうと思っている訳ですが、私としてはむしろ上田氏の真贋をSF作品『華竜の宮』あるいは『火星ダーク・バラード』を読んでみて計りたいと思います。ともに『華竜の宮』は北上次郎氏が、そして『火星ダーク・バラード』は小松左京氏が絶賛していらっしゃると聞く。なんとも凄い話ではないですか。姫路にそんな凄い作家が住んでいらっしゃることが嬉しい。姫路市民として応援させていただきたいと思います。ちょっとお会いしたい気も……