佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

7月の読書メーター

7月の読書メーター
読んだ本の数:9冊
読んだページ数:2478ページ
ナイス数:2993ナイス

 

七月の読書生活は幸せなものであった。森薫さんの画に酔い、ユーラシアの心に酔った。ロバート・ネイサンのロマンチックな物語に酔った。そして何よりも人の死なない日常のミステリの魅力に酔った。アームチェア・ディテクティブを存分に楽しむことが出来た。名作『九マイルは遠すぎる』を読むことが出来たのは僥倖であった。久しぶりに森見登美彦氏の小説世界に遊ぶことも出来た。

乙嫁語り 2巻 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)乙嫁語り 2巻 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)
身を呈して自分を守ってくれたカルルクに姐さん女房アミルは嫁心がついたのだなぁ。19世紀のユーラシアで生きていくなら命のやりとりは十分あり得ること。大切なもののために命をかけて闘う覚悟は一人前の大人なら皆が持っていたはず。いつ死んでも良い覚悟で生きる。けっして命を軽んじるのではない。命の儚さを知っているからこそ、愛する人はかけがえのないものなのでしょう。その人を守るためなら己が命と引き替えにしても悔いはない。その覚悟を幼い夫に見たとき嫁心はついた。嫁心とは相手の覚悟を同じ気持ちで受けとめるということか。
読了日:07月01日 著者:森 薫

 


乙嫁語り(3) (ビームコミックス)乙嫁語り(3) (ビームコミックス)
1巻、2巻ではエイホン家の居候としてちょい役扱いだったスミスさんだが3巻から主人公になった。運命の女(ひと)と思われたタラスとの出会い。しかしそれは引き裂かれる定めだったのか。結婚は当人同士が決めるのではなく親が決めるものという考えには西欧人のスミスには納得がいかないだろう。しかし19世紀の中央アジアにあってはあたりまえ。何かといえば愛だの正義だのを振りかざす西欧文化と、定めを受け入れそこから愛情を育んでいくユーラシア文化。考えてみればアミルとカルルクの歳の差婚もユーラシアの美しい心のあり方なのだが・・・
読了日:07月03日 著者:森 薫

 


ジェニーの肖像 (創元推理文庫)ジェニーの肖像 (創元推理文庫)
恩田陸さんの小説『ライオンハート』は『ジェニーの肖像』へのオマージュとして書かれたと知り読むことになった。『ジェニーの肖像』は若い画家、『それゆえに愛は戻る』は若い童話作家が主人公。どちらも主人公が謎の女性を想う切ないまでのリリシズムに溢れた作品。大切なものであればあるほど、それが壊れてしまったり、失ってしまうことに対する怖れが心の片隅に芽生える。幸せの刹那であってさえ、心は喪失の予感につつまれる。いや、喪失の予感につつまれているからこそ、幸せの刹那は儚くもその輝きを増すのだ。
読了日:07月06日 著者:ロバート・ネイサン

 


乙嫁語り 4巻 (ビームコミックス)乙嫁語り 4巻 (ビームコミックス)
パリヤの自意識過剰ぶりかわいいなぁ。これを理解し包容する男なら婿として最高だろう。双子の娘ライラとレイリの結婚相手が決まる過程を興味深く読んだ。父親が決める結婚相手だが「あなたでも良かった」ではなく「あなたで良かった」という肯定感から始めることが大切なのだな。相手を受け入れ、相手の良いところを見る。そうすることで相手も自分を受け入れてくれる。自分で決めた結婚ではないけれど、それは相手も同じこと。相手のために出来るだけのことをしてあげようと思う。美しい心のあり方だ。幸せはそこから始まる。
読了日:07月08日 著者:森 薫

 


トレインイロトレインイロ
誰の頭の中にもイメージの刷り込みというものはあるだろう。たとえば私の住んでいる町でバスのイメージといえばJRの線路から北はオレンジ、南はグリーンといったように。本書は全国の列車のボディカラーを北から南へと総カラーで見ていくことが出来る。こうしてみると色というものはその明暗や濃淡で様々だ。またその配色、線であればその太さ、ライナーかカーブかなどによってこれほど美しく趣深いものになるのだと感じ入る。パラパラと頁をめくりながら、それぞれに付された下東史明氏のひと言コメントを楽しむのもいとをかし。イロをかし。
読了日:07月12日 著者:下東史明

 


クドリャフカの順番 (角川文庫)クドリャフカの順番 (角川文庫)
コアなミステリファンにはクリスティへの崇敬を、そうでもない読者にはわらしべ長者的御都合主義を、この本はそんな楽しみを与えてくれる。『氷菓』、『愚者のエンドロール』、そして本書と巻を重ねるごとにおもしろみを増している。本書で瞠目するのは摩耶花と河内先輩との「漫研での評論は無意味なのか?」論争、そして入須先輩の「頼み事の極意」だ。どちらも読んでいて脳が活性化するのがわかる。脳がその栄養分たる知性に触れてよろこんでいるのだ。頭の良い人が展開する論理は読んでいて心地よい。これぞミステリの醍醐味。
読了日:07月14日 著者:米澤 穂信

 


宵山万華鏡 (集英社文庫)宵山万華鏡 (集英社文庫)
登美彦氏は子どもの頃、裏山の和尚さんとケンカをして、「実益のないことしか語ることができない」呪いをかけられたそうな。翻って私はどうか。「阿弥陀如来を頼みまいらせて念仏すべきものなり。あなかしこ、あなかしこ」というありがたい御教えをことごとく無視してきた報いか、小説などという実益の欠片もないものを果てしなく読み続けている。しかもあろうことか登美彦氏の文章がことのほかお気に入りである。それにつけても、この無益な小説を読む喜びは果たして無益なことなのだろうか。あるいは有益なことではなかろうかとも思う。
読了日:07月16日 著者:森見 登美彦

 


遠まわりする雛 (角川文庫)遠まわりする雛 (角川文庫)
短編ミステリ、それも日常のミステリの魅力を余すところ無く楽しめた。ミステリとしての楽しみに淡い恋心の芽生えがいい感じに情緒を添えている。さて、今、手元には『九マイルは遠すぎる』(ハリイ・ケメルマン)と『二人の距離の概算』(米澤穂信)がある。どちらを先に読むべきか。悩むなぁ。二人の女性から、それも極めつけの魅力を持った女性から同時にデートのお誘いを受けた気分はきっとこんなだろう。体はひとつしかないからなぁ。うーん・・・・・
読了日:07月21日 著者:米澤 穂信

 

 


九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)
「人として最も尊ぶべき性質は何か?」と尋ねられて迷わず「知性」と答える種類の人にとって『九マイルは遠すぎる』はたまらない短篇でしょう。もしも初めて読んだミステリがこの小説であったなら、その後のミステリ小説に対する見方に大きく影響するのではないか。たとえば思春期前の男の子が衝撃的に知的でエレガントな年上女性に恋したとして、その後、思春期から青年期を通じて出会う同世代の女性の多くに物足りなさを感じてしまうのではないかといったように。この小説に出会うきっかけとなった米澤穂信氏の『心あたりのある者は』に感謝。
読了日:07月29日 著者:ハリイ・ケメルマン