佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

冬のフロスト

「おれは、あの吸引器ってやつが恐いんだよ」 フロストはぶるっと身を震わせた。 「あれが突然、逆流してみろ。おれのまえに治療されたやつ百人分もの唾液が、どっと口のなかに流れ込んでくるんだぜ。それを思うと、もう、身の毛がよだつのなんの」 フロストは大口を開けて、ハムのサンドウィッチをもうひと口かじった。

                                 (本書下巻P125より)

 

『冬のフロスト 上・下』(R・D・ウィングフィールド:著/創元推理文庫)を読みました。

 

まずは出版社の紹介文を引きます。

(上巻)


寒風が肌を刺す1月、デントン署管内はさながら犯罪見本市と化していた。幼い少女が行方不明になり、売春婦が次々に殺され、ショットガン強盗にフーリガンの一団、“怪盗枕カヴァー”といった傍迷惑な輩が好き勝手に暴れる始末。われらが名物親爺フロスト警部は、とことん無能な部下に手を焼きつつ、人手不足の影響でまたも休みなしの活動を強いられる…。大人気警察小説第5弾。


 

(下巻)


 

冬のデントン市内で起きた事件の数々は、大半が未解決のままだった。少女誘拐の容疑者は不在となり、売春婦を狙う殺人犯はいまだ野放し。マレット署長の小言には無視を決め込み、モーガン刑事の相次ぐ失態はごまかしてきたが、それも限界だ。どでかい失策に州警察本部の調査が入るわ、“超能力者”が押しかけるわでデントン署は機能不全の瀬戸際、フロスト警部もついに降参か!?


 

 

 

 マレット署長が州警察本部のお偉方にいい顔を死体ばかりに十人もの警官を応援に送った手薄なときにクソみたいな事件が頻発。少女失踪事件が二件に加えて少年の失踪、コンビニ強盗事件、連続売春婦殺害、怪盗枕カヴァー事件ともうデントン警察署はヒッチャカメッチャカである。しかもそれらの事件のほとんどはいっこうに解決の兆しもない。膠着状態が延々と続くのだが退屈しないのはどうしたことか。

 風采が上がらず、下品なジョークをとばしてはすべってばかりいるフロスト警部。憎まれ口をたたき理想の上司タイプにはほど遠いが、本当は心優しく人の情ってヤツがわかっている。態度には出さないがほんとうは部下のことも思いやっている。そんな主人公の魅力もさることながら、フロスト警部シリーズをより魅力的にしているのは脇役だ。いけ好かないお追従署長マレット。ギラギラ上昇志向女性警部代行のリズ・モード。そんなモードに階級を追い越されひがむウェルズ。スケベでお人好しで役立たずの部下モーガン刑事。まことに多士済々である。脇役の光る小説はおもしろい。上下巻あわせて1千ページを読んた労力に後悔なし。