佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『獅子吼』(浅田次郎・著/文春文庫)

『獅子吼』(浅田次郎・著/文春文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

「けっして瞋るな。瞋れば命を失う」父の訓えを守り、檻の中で運命を受け入れて暮らす彼が、太平洋戦争下の過酷に苦しむ人間たちを前に掟を破る時―それぞれの哀切と尊厳が胸に迫る表題作ほか、昭和四十年の日帰りスキー旅行を描く「帰り道」、学徒将校が満洲で奇妙な軍人に出会う「流離人」など華と涙の王道六編。

 

獅子吼 (文春文庫)

獅子吼 (文春文庫)

 

 

 泣かせ屋浅田の短編集とあって、大いに期待して読んだが、泣けるものあり、それほどでもないものもある。

「獅子吼」「流離人(さすりびと)」の2篇は反戦もの。こういうものはいかにも新聞が褒めそうでいやだなあ。とはいえ、「獅子吼」は浅田氏らしさが出た良作。

「うきよご」は東大紛争のあった昭和44年に無受験浪人した学生の話。私生児として生まれ、複雑な家庭に生まれた主人公が混沌とした時代にあって、異母姉との姉弟愛とも、男女愛とも判然としない複雑な思いを持ちながらある境地に至るという話。こういうややこしい小説は文学好きが褒めそうな話である。私としてはもっとシンプルに情に訴えるものが浅田氏らしいと思うのだが・・・。

「帰り道」におやっと思うような味わい深さがあって良かった。