佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

夜は短し歩けよ乙女

 彼女が妙な拳の握り方をしていることに気づいた。
 私がその拳を真似てみせると、彼女はふんわりと笑った。夜を司る神と偽電気ブランこそが与えたもう、真善美うち揃った笑みだった。
「これは、おともだちパンチです」
 その豆大福のような拳を見たのを最後に、私は酔いつぶれた。
 ついに主役の座を手にできずに路傍の石ころに甘んじた私の、苦渋の記録はここにて終わる。
涙をのんで言う。さらば読者諸賢。
                      (本書P69より)

夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦/著・角川書店)を読み終えました。
 書き出しを読めばその本が解ります。この本の書き出しはこうです。
 

 これは私のお話ではなく、彼女のお話である。
 役者に満ちたこの世界において、誰もが主役を張ろうと小狡く立ち廻るが、まったく意図せざるうちに彼女はその夜の主役であった。そのことに当の本人は気づかなかった。今もまだ気づいていまい。
 これは彼女が酒精に浸った夜の旅路を威風堂々と歩き抜いた記録であり、また、ついに主役の座を手にできずに路傍の石ころに甘んじた私の苦渋の記録でもある。読者諸賢におかれては、彼女の可愛さと私の間抜けぶりを二つながら熟読玩味し、杏仁豆腐の味にも似た人生の妙味を、心ゆくまで味わわれるがよろしかろう。
 願わくは彼女に声援を。

 如何でしょうか。すばらしいでしょう。そうですこの本は傑作です。私はこの本とともにいる間、なんとも心地よくちょっと不思議な世界を彷徨いました。そして、ひたすら彼女に声援を送り、彼女を好きになっていきました。否、彼女の登場と同時に彼女に魅了されたと言っても良いでしょう。これがこれが森見ワールドというものでしょうか。
 ちなみに彼女は天然です。いや天真爛漫といった方が適切でしょう。いやそれでも足りない。純真無垢、無邪気、可憐という称号も付け加えさせていただきましょう。妄想と現実とをごちゃごちゃにする無謀も、奇遇というご都合主義も、中身がなく結末がみえみえという誹謗中傷の類も、彼女の罪のない無邪気の前には全く説得力を持たない。なぜなら、理屈で無垢を断ずることはできないから。
 生まれ変わったら京大へ行く。ひたすら勉強の暗い中学・高校時代を過ごそうとも、二浪、三浪しようとも、生まれ変わったら必ず京大に行きたい。私にそう思わせた小説はこれで二つ目だ。一つは三月に読んだ万城目学氏の『鴨川ホルモー』。
http://hyocom.jp/blog/blog.php?key=81556
もう一つは本著である。


「詭弁踊り」          見たい!
「偽電気ブラン」        飲みたい!!
「愛に満ちたおともだちパンチ」 見舞って欲しい!!! なむなむ!

夜は短し歩けよ乙女

夜は短し歩けよ乙女