佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

2013年の読書メーター その4


鼠―鈴木商店焼打ち事件 (文春文庫 し 2-1)鼠―鈴木商店焼打ち事件 (文春文庫 し 2-1)感想
容姿端麗、頭脳明晰、高学歴、行いにそつなく、隙がない、女性にもてる、そんな男がいたとする。逆に頭脳は明晰なれど、小学校すら出ていない、容姿醜貌(はっきり言って醜男)、風采揚がらず、しかし仕事の上では才気煥発、常人には及びもつかない独特の発想を持ち、自分の信ずる道を盲目滅法まっしぐらに突き進む、そんな男がいたとする。どちらが人として魅力的か。私が友に選ぶとすれば迷わず後者だ。金子直吉、スゴイ人物が神戸の経済界に、いや、世界の経済界にいたものだ。それにしても大阪朝日新聞の唾棄すべき所行・・・恥を知りなさい。
読了日:11月13日 著者:城山三郎
晴れた日は図書館へいこう ここから始まる物語 (ポプラ文庫ピュアフル)晴れた日は図書館へいこう ここから始まる物語 (ポプラ文庫ピュアフル)感想
良く晴れた秋の休日。「こんな天気のいい日に、家の中でじっとしているなんてもったいない」と図書館に出かける主人公の少女。いいですね。すばらしいですね。本好きにとって一つの理想がここにある。悪人が登場せず、人の死なない日常のミステリ。今、真夜中の十二時だが、早くも図書館に行きたくなってきた。禁断症状である。明日は土曜日。図書館に行こう。
読了日:11月15日 著者:緑川聖司
風の中のマリア (講談社文庫)風の中のマリア (講談社文庫)感想
オオスズメバチ(ヴェスパ・マンダリニア)の物語だったとは。題名からの想像を全く裏切られた。しかし、その裏切りはけっしてがっかりではない。非常に興味深い小説でした。以前、竹内久美子さんの御本で「生物はみな利己的自己複製子の乗り物<ヴィークル>なのであって、どうあがこうともその事実からは逃れられない」といった話を読ませていただいたが、蜂の世界においてはその事実がこれほどまでに生態に現れていようとは。驚きである。すべての生物のふるまいはゲノムによってあらかじめプログラムされたものなのだと改めて痛感した次第。
読了日:11月17日 著者:百田尚樹
Fellows! 総集編 乙嫁語り&乱と灰色の世界 (BEAM COMIX)Fellows! 総集編 乙嫁語り&乱と灰色の世界 (BEAM COMIX)感想
乙嫁語り』は既刊五巻まですべて持っています。ですから何を今更なのですが、気になったのは「クレールさんの日常茶飯事」。森薫唯一の単行本未収録作品となれば読んでみたくなるではないですか。おまけに表紙を飾るもう一人の美女。入江亜季さんの『乱と灰色の世界』のヒロイン乱ちゃんとか。さらに読んでみたくなるではないですか。読んでみました。まぁ、わざわざ取り寄せて読むほどのものではなかったかも。早く『乙嫁語り』続編を発刊していただきたい! と、強く言っておく。
読了日:11月17日 著者:森薫,入江亜季
事例解説 すぐわかる選挙運動 ―ケースで見る違反と罰則―事例解説 すぐわかる選挙運動 ―ケースで見る違反と罰則―感想
つまらん。2200円出して買ったことをくやむ。この程度のことなら買うまでもなかった。公からガイドラインを出していただければ十分ではないか。
読了日:11月17日 著者:三好規正
鉄の骨 (講談社文庫)鉄の骨 (講談社文庫)感想
何が「正義」か? それはそのことを考える者がいる環境、立場、その時の状況、抱える事情によって異なる。「正義」などというものは、それを判断する人間の主観であって、時代によっても変わるほど危ういものだ。「ルールを守ること」=「正義」というのも一見正しいようだが、そのルールに欠陥があれば、或いは不公平があれば必ずしも正しいとは言えない。そう言いながら「欠陥」とはなにか、「不公平」とはなにかを考えていくと、これまたそれを判断する者の主観といわざるを得ない。あぁ、単純にこれが正義だと信じることが出来た頃はよかった。
読了日:11月21日 著者:池井戸潤
雨の日には車をみがいて (集英社文庫)雨の日には車をみがいて (集英社文庫)感想
読んでいる間ずっとわたせせいぞう氏の『ハートカクテル』風の画が頭に浮かんでいました。綺麗な透明感のある色彩、スタイリッシュな世界観、1980年代後半でした。題名『雨の日には車をみがいて』は愛車を洗車した後に雨に降られるのを厭がるような男のかっこ悪さを皮肉ったものだ。もちろん私はそのような男ではない。それどころか、車をいつもピカピカにみがくことを恥ずかしいと思う複雑な自意識を持つ、誠にややこしい男である。子供の頃、運動会の日の為に親が買ってくれた真っ白に新しい運動靴をわざわざ土で汚して履いていった人間です。
読了日:11月24日 著者:五木寛之
ロスジェネの逆襲ロスジェネの逆襲感想
半沢直樹シリーズは体に悪い。読み始めたら止められない。仕事中に読むわけにいかないから家で読むことになる。夜遅くなる。胸のすく大逆転劇に読み終えても興奮冷めやらず、しばらくは眠れないだろう。現在、夜中の1時半。「いつの世にも、世の中に文句ばっかりいってる奴は大勢いるんだ。だけど、果たしてそれになんの意味がある」という半沢の言葉を噛みしめながら、酒をやっています。もうしばらく飲めば少しは眠気がやってくるか・・・・
読了日:11月26日 著者:池井戸潤
蜩ノ記 (祥伝社文庫)蜩ノ記 (祥伝社文庫)感想
十年後の八月八日を切腹する日と期限を切って家譜編纂を命ぜられた戸田秋谷の至った境地に感銘を受けた。いつかやってくる死ではなく、その日には必ず訪れる死を覚悟したとき、秋谷には常人につきまとう迷いが無くなったのではないか。常住死身の境地、まさに”武士道とは死ぬことと見つけたり”である。いくら命があっても志が無ければ、それはただ生きているだけの抜け殻である。またその生き方に矜持が無ければ美しくない。物語とは云え、一人の武士(もののふ)の生き方に心が震えた。直木賞授賞に異議なし。
読了日:11月28日 著者:葉室麟
味を追う旅 (河出文庫)味を追う旅 (河出文庫)感想
住むところの近くに行きつけの店がある。その店はいわゆる高級店ではなく、安くてうまい店である。蕎麦屋では酒を飲む。旅先でも、その町その町にうまい店を知っている。食事付きの旅館には泊まらない。どこでもありきたり料理しか出ないからだ。ホテルに泊まり街中にあるうまい店に出かける。朝飯はその町の市場に出かける。市場の周辺の店は、食材を知り尽くした玄人相手の店だけに、材料、味、値にウソが無い。客に気を遣わせるような偉そうな店主のいる店には行かない。人におもねることはしない。吉村昭氏はそうした人だ。手本としたい。 
読了日:11月28日 著者:吉村昭
幻想郵便局 (講談社文庫)幻想郵便局 (講談社文庫)感想
読んでいる間、ずっと感じていたザワザワとした違和感。ファンタジーなのかミステリーなのか・・・。いや、カテゴリーなどどうでもよい。作者の訴えたいものが伝わってこない。心に響いてこない。裏表紙の紹介文には「生きることの意味をユーモラスに教えてくれる癒やし小説」と書いてあるが、読んだ後も私には「生きることの意味」が判らない。ただ、他に類を見ない風変わりな小説であった。このテイストは一定の読者には受けるのだろうが、私には合わなかったと言わざるを得ない。おそらく、私は歳をとってしまったのだな。
読了日:12月1日 著者:堀川アサコ
爆ぜるゲームメイカー (講談社文庫)爆ぜるゲームメイカー (講談社文庫)感想
木下半太氏の小説は数えて9冊目。好んで読ませていただいてます。特段の感動などありはしません。感動とは別の動機を持って木下氏の小説を読むのです。たとえて言えば、それは遊園地のジェットコースターです。ジェットコースターってのはとにかくハラハラドキドキする乗り物です。そのスリルを味わうためにのみあるものではないでしょうか。はっきり言って、そんなものなくても誰も困らない。乗る必要など何もない。でも、目の前にそれがあれば乗らずにいられない。そう、木下氏が紡ぐ物語はまるでジェットコースターのような物語なのです。
読了日:12月2日 著者:木下半太
謎解きはディナーのあとで 2 (小学館文庫)謎解きはディナーのあとで 2 (小学館文庫)感想
間違いなく楽しめます。マンネリではあっても、お嬢様と毒舌執事の掛け合いがユーモラスで愉しい。物語の筋は判らなくても、読む前からそのテイストと、どの程度の満足感かは判っています。期待以上でも以下でもない、まさに期待どおりの質であるという意味で安心感があります。たとえて言うならCoCo壱番屋のカレーのような小説です。サプライズも感動もありませんが、期待に違わぬ味を提供してくれます。そして、一定の満足感が得られます。続編3も読むことになるでしょう。
読了日:12月5日 著者:東川篤哉
悪夢の六号室 (幻冬舎文庫)悪夢の六号室 (幻冬舎文庫)感想
そうきたかー。完全にやられたー。意外性の嵐に脱帽。まいりました。
読了日:12月5日 著者:木下半太
頼子のために (講談社ノベルス)頼子のために (講談社ノベルス)感想
想像をはるかに超えた驚愕の真実。その一言に尽きる。忘れられない一冊になること間違いなし。
読了日:12月8日 著者:法月綸太郎
飲めば都 (新潮文庫)飲めば都 (新潮文庫)感想
意外な真実にビックリするようなミステリではない。ハラハラ、ドキドキのサスペンスでもない。涙を誘う悲話でもない。胸を熱くする感動の話でもない。でも、主人公・小酒井都はとても素敵な女性です。こんな子が側にいれば間違いなくプロポーズしますね。この小説を読むと、職場っていいなぁと思います。会社に行って、仲間と一緒に仕事をしようと言う気になります。そして夜には職場場の仲間と居酒屋に行きたくなります。心を前向きにさせるお仕事小説でした。酒飲みなら誰もがこの小説の良さが判るはず。
読了日:12月10日 著者:北村薫
タイのことがマンガで3時間でわかる本 (アスカビジネス)タイのことがマンガで3時間でわかる本 (アスカビジネス)感想
タイに向かう飛行機の中、本当に3時間ほどで読み切りました。タイの政治事情、経済の状況、タイ人の気質、企業として進出する場合の留意事項などひととおり判りやすくまとめてあります。書いてあることが正確かどうかは判りませんが、気楽に読めて予備知識が得られたのは初めてタイを訪れた私にはありがたかったです。
読了日:12月11日 著者:朝日ビジネスソリューションタイランド
偉大なる、しゅららぼん (集英社文庫)偉大なる、しゅららぼん (集英社文庫)感想
人は圧倒的な力を我が物にしたとき品性が露わになる。たとえば、それは金持ちに高貴な者と品性下劣な者、2種類の金持ちがいることと同じことだ。人を有無を言わせず従わせ、場合によっては人をひねり潰すことができるほどの力を持ったとき、その力を行使するか否か、行使するとしてどのように使うか、その人の品性が問われるということだろう。この小説は面白い。題名の奇抜さにおいても、面白さにおいても『鴨川ホルモー』とともに万城目ワールドの双璧をなす。次は姫路城を舞台にした物語を書いて欲しいなぁ。
読了日:12月18日 著者:万城目学
軍師 黒田如水 (河出文庫)軍師 黒田如水 (河出文庫)感想
「童門さん、あなたもですか」といささかがっかりしながらも、私もしっかりNHK大河ドラマの放映を翌月に控えたこの時季に読ませていただきました。(笑) しかし解説にあるように、これはもともと平成六年に富士見書房から発刊された『小説黒田如水』という小説であって、NHK大河ドラマ便乗本ではないらしい。失礼いたしました。黒田官兵衛という切れ者を童門さんらしい切り口で描いた良書です。「頭が良すぎて、それが災いした」才人がどのような生き方を選んだか、私も参考にさせていただこう。え? お前には関係ない? こりゃまた失礼。
読了日:12月22日 著者:童門冬二
輝く夜 (講談社文庫)輝く夜 (講談社文庫)感想
私は日本の冬に暴力的な猛威をふるうクリスマスという厚顔無恥な馬鹿騒ぎを憂い、昨今の恋愛礼讃主義に敢然と異を唱え、かような理不尽極まりないクリスマスファシズムに対し「日本人はもう一度節度を取り戻さねばならぬ」と主張するものである。が、しかし、百田氏が紡いだクリスマスイブの奇蹟の物語に目頭を熱くし、心がほっこりと温まった。多くを望まず、不平を言わず、真っ当に毎日を生き、ささやかな幸せを願う人にはこんな奇蹟があっていい。いや、あってほしい。小説はそんな読者の願いを叶えてくれる。素晴らしいことではないか。
読了日:12月22日 著者:百田尚樹
ともえともえ感想
近江を舞台にした芭蕉と智月尼の恋。老いたりといえどなお色香を残す二人の躰のつながりのない恋愛に興味を覚えた。芭蕉と会うだけで、ただ話をするだけで心を浮き立たせる智月尼の純真を描いて妙。木曽義仲巴御前芭蕉と智月尼の二つの物語が時間を越えて交錯するのだが、そのあたりの絡まり合いがやや薄く物足りなさを感じないでもない。同じく義仲と巴の物語をベースにした時空を越えたミステリー小説として浅倉卓弥氏の『きみの名残を』があるが、物語のおもしろみはそちらに軍配があがる。しかし、なんともいえぬ味わいのある小説であった。
読了日:12月28日 著者:諸田玲子
待ってる 橘屋草子 (講談社文庫)待ってる 橘屋草子 (講談社文庫)感想
貧乏も空腹も茶飯のことであり、身体の一部のように一生背負っていくしかない境遇にあってなお、凜とした矜持を胸に秘め生きている市井の人を描いた短編連作。裕福な食通が通いつめる橘屋という料理茶屋。そこで働く使用人は店で供される料理など一生口にすることはない。しかし、橘屋のもてなしは客の富みへのおもねりや卑屈さではない。心を込めたもてなしは「人の値打ちは金で決まるものではない」という矜持があってこそだろう。現実が厳しくとも明日を信じて頑張ろうと心から思える読後感が心地よい。読んで良かった。心からそう思う。
読了日:12月29日 著者:あさのあつこ
作家の食卓 (コロナ・ブックス)作家の食卓 (コロナ・ブックス)感想
作家は己のスタイルにこだわりを持つ。生き方にうるさいのだ。生き方にうるさければ、食事にもこだわる。たとえば、旅先で昼飯を食うとして、目についたもの何でも良いと云うわけにはいかない。あれでもない、これでもないとメガネにかなうものを探しているうち、ついに食べず東京に帰って行きつけの店に入ろうということになるほどややこしい人種だ。そうした人種がどんなものを好んだか、どんな店を贔屓にしたか、どんなことを書き、どんなことを語ったか、そうしたことをひもとくと人となりが露わになる。手本とすべき美質が際だって見えてくる。
読了日:12月29日 著者:
じゃりン子チエ―チエちゃん奮戦記 (15) (アクション・コミックス)じゃりン子チエ―チエちゃん奮戦記 (15) (アクション・コミックス)感想
渉先生の嫁・朝子さんが本格的に登場。ヨシ江はんは黙っていながらテツの調子を狂わせリードしてしまうのだが、朝子さんは何の遠慮もなくテツに言いたいことを言い、テツの言うことなど適当に聞き流して自分のペースに巻き込んでしまう豪傑である。ヨシ江はんも朝子さんも腹の据わり方がまともでない恐ろしい女である。おんな組に対しておとこ組の心のなんと稚拙でヤワなことよ。男は女に頭が上がらない。しかしダメな男にも意地というものがある。後半登場のコケザルに弱いけれど強くありたいという男の意地を見た。温かいなぁ、はるきさんの世界。
読了日:12月30日 著者:はるき悦巳