佐々陽太朗の日記

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『ぐるぐる問答 森見登美彦氏対談集』(森見登美彦:著/奥田素子・幾野克哉:編集/小学館)

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『ぐるぐる問答 森見登美彦氏対談集』(森見登美彦:著/奥田素子・幾野克哉:編集/小学館)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

 

森見登美彦氏初の対談集!森見登美彦氏初の対談集!
10代、20代の読者に圧倒的な人気を誇る森見登美彦氏、初の対談集!デビュー以降各雑誌に掲載された、いまやほとんど読むことの出来ない対談を一挙収録。対談相手は劇団ひとり氏、本上まなみ氏、大江麻理子氏、萩尾望都氏、羽海野チカ氏、うすた京介氏、綾辻行人氏、綿矢りさ氏、万城目学氏など14人。
十年前の森見登美彦氏と現在の森見登美彦氏が対談する小説「今昔対談」も特別収録。
内容(「BOOK」データベースより) 四畳半の内側に広がるフロンティアへ!人生初の対談から、超緊張のご対面まで。作家生活10年間の、登美彦氏と豪華ゲストとの対話を網羅!

 

ぐるぐる問答: 森見登美彦氏対談集

ぐるぐる問答: 森見登美彦氏対談集

 

 

「ぐるぐる」について考えてみたい。

「ぐるぐる」とはどういう状態を表すのか。「ぐるぐる問答」とはいったいどういう問答のことなのか。疑問である。登美彦氏は「はじめに」の文章を次のように結んでいる。

たとえば文章を書く場合なら、読者に喜んでもらえるように私なりに工夫をこらす。しかし対談の場合はそうではない。ただ正直に、出たとこ勝負で喋るだけである。だから私はたいていの対談でぐるぐるしてしまう。それゆえに「ぐるぐる問答」である。言うまでもないことだが、「座談の名手」はぐるぐるしない。もし対談相手もぐるぐるしているように読者が感じたとしたら、それは私のぐるぐるゆえであって、一切のぐるぐるの責任は私にある。そのぐるぐるを楽しむつもりで読んでいただければ幸いである。

 どうもハッキリしない。ハッキリしないが、どうやら登美彦氏は「ぐるぐる」している状態は好ましくない状況と考えているようである。文章を書く場合は「ぐるぐる」しないが、対談の場合は(出たとこ勝負なので)「ぐるぐる」してしまうとすると、「ぐるぐる」とは「混乱」または「支離滅裂」あるいは「慌ててしまってうまく対処できない状態」といったことをいうのだろうか。ただ、登美彦氏は「はじめに」でこうも言っている。「もし対談相手もぐるぐるしているように読者が感じたとしたら、一切の責は私にある。そのぐるぐるを楽しむつもりで読んでいただければ幸いである」 ということは登美彦氏は「ぐるぐる」している状態を好ましくないと言いながら、「ぐるぐる」を待ち望んでいるのではあるまいか。ひょっとして登美彦氏はぐるぐるしている自分をカワイイとすら考えているのではないかとの疑いを抱くのである。

 そういえば登美彦氏が「ぐるぐる」という言葉を使うのは本書が初めてではない。2011年6月に新潮社から上梓された『森見登美彦の京都ぐるぐる案内』という本がある。登美彦氏の小説の中に出てくる名場面にちなんだ所を案内するというガイド本である。これなど「街中をぐるぐる歩く」というニュアンスが強いようだが、この本で登美彦氏は「京都を四畳半化する」などというわけのわからないことを言っている。私に言わせれば、それこそ「ぐるぐる」しているのだ。そして有頂天家族』『有頂天家族 二代目の帰朝』における矢三郎と海星との関係。弁天にどうしようもなく焦がれる矢三郎であるが、許嫁の海星とは赤い糸でぐるぐる巻きに結ばれている。続編で矢三郎と海星がどうなるのか未だ不明であるが、おそらく登美彦氏なりの「ぐるぐる巻きの幸せ」を著していただけるに違いない。さらに『ペンギン★ハイウェイ』である。文庫本の59Pあたりで主人公アオヤマ君が「無」について考える場面があるが、その場面で「・・・・・・こういうことを考えてると、ぼくは頭の奥がつーんとするんだ。それで、何かぐるぐるした感じがする」というセリフがある。どうやら登美彦氏は「ぐるぐる」という言葉がそうとう好きと見える。

 どうやら「ぐるぐる」について、いくら考えても「ぐるぐる」するばかりで何ら成果を生み出すことはなさそうである。まるで迷路に迷い込んだように出口が見えない。そもそも「ぐるぐる」とはそうしたものであろう。うっちゃっておくほかあるまい。

 本書の対談相手は以下のとおりである。

 私の知らない方も多いのだが、さすが登美彦氏が対談相手に選ばれただけあって多士済々、なかなかのぐるぐる感である。柴崎友香さんの『きょうのできごと』、うすた京介氏の『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』『ピューと吹く!ジャガー』、萩尾望都さんの『11人いる!』、飴村行氏の『粘膜人間』はぜひ読みたい。神山健治氏のアニメ『東のエデン』もぜひ視たい。

 

 登美彦氏のブログを読むと、映画「ペンギン・ハイウェイ」が完成した由、8月17日のロードショーが楽しみである。自立心と向上心と克己心に溢れ、世界の果てやら相対性理論やら生命の起源やらについて考えるのに忙しい少年、怒りそうになるとおっぱいのことを考えて心を平和に保つ少年アオヤマ君に会えると思うとワクワクする。もちろんミステリアスで魅力的なお姉さんがどんなふうに描かれるのかも気になるところ。

 最後になりますが、この本を贈ってくださった小学館の奥田素子さん、幾野克哉氏に感謝します。ありがとうございました。