佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

「灘の男」(車谷長吉著:文藝春秋刊)を読了

 粋で、いなせで、権太くれ。「それが灘の男や。」
 帯のキャッチフレーズである。播磨は今、祭り真っ盛り。姫路出身の車谷長吉氏の「灘の男」を読んだ。

灘の男

灘の男

 「灘のけんか祭り」の灘七村には伝説の男が二人いた。二人とも能狂言に出てくる悪太郎である。「悪い」という意味ではなく「強い」という意味の悪太郎である。彼らは民主化とか人権尊重などといった薄っぺらな『偽善』とは無縁である。強く、大きく、魅力的、人は彼らに惹きつけられずにいられない。二人の名は「濱長」「重たん」。
 本小説は「聞き書き」という形式をとっている。従って小説と言っていいかどうか、どう評価すべきか迷うところがある。しかし、読めばわかるが評価などどうでもよいのである。車谷氏が描きたかったのは、けんか祭りの「灘」という土地が生んだ強烈無比な二つの個性「濱長」こと濱田長蔵、「重たん」こと浜中重太郎である。おそらく、これからの日本では生まれることはないであろう稀少な個性なのだ。
 祭り好きの人にはもちろんのこと、そうでない人にも是非読んでほしい一冊だ。播州に住む者には、否、日本に住む者なら、この二人の魅力がストレートにわかるはずだから。