佐々陽太朗の日記

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『科挙』(宮崎一定:著/中公新書)を読む

科挙』(宮崎一定:著/中公新書)を読み終えた。
兵庫太郎さんからお薦めのあった本である。

 

本を開いてまずビックリしたのが「カンニング下着」の写真。着物にびっしり四書五経とその注釈が書いてある。表裏で70余万字が書かれている。カンニングの是非はともかくとして、受験者のこの試験に掛ける思いの強さがうかがい知れようというもの。

 

兵庫太郎さんも言っておられたように、浅田次郎氏も『蒼穹の昴』を執筆されるにあたりこの本を参考にされたふしがある。老人に非常に親切であった蘇州のある挙子の話がP79あたりに逸話として紹介されている。読んでいて『蒼穹の昴』の主人公・梁文秀(史了)が科挙に状元で合格し、みごと進士となった場面を思い出した。(「状元」とは科挙を首席で合格することである)

 

本書P149に紹介されている文天祥の詩に感銘を受けた。

文天祥南宋の宰相で科挙を状元で合格したエリートである。
南宋モンゴル族の元に都を攻め落とされたときに、もはや勝敗は誰の目にも明らかであったにもかかわらず、宰相・文天祥はわずかの手勢を引き連れ各地に転戦して、漢民族のため、否、宋の天子のために万丈の気をはいた。彼が敗戦の中に謳った零丁洋の詩がこれだ。

 

辛苦遭逢起一経   辛苦の遭逢は一経より起ち、
干戈落落四周星   干戈落落たり四周星。
山河破砕風飄絮   山河は破砕して風は絮を飄げ、
身世浮沈雨打萍   身世は浮沈して雨は萍を打つ。
惶恐灘頭説惶恐   惶恐灘の頭に惶恐を説き、
零丁洋裏歎零丁   零丁洋の裏に零丁を嘆く。
人生自古誰無死   人生古より誰か死無からん、
留取丹心照汗青   丹心を留取して汗青を照らさん。

 

辛苦の境涯は私が経書を勉強して進士を目指したときよりの定めだ。
戦の指揮をしてきたが、思うようにならず四年が過ぎた。
山河は打ち砕かれて、風は柳絮をもてあそび
人の世は揺れ動いて、雨が浮き草を打っていようようである。
江西の河の難所、惶恐灘のほとりでは皇帝の詔を恐れかしこんで受けたのだが
ここ零丁洋では独りうらぶれた身を嘆こうとは
人生は必ず死を迎えるもの。真心を守って、歴史に名を残そうではないか。

 

ここには進士に及第した者、それも首席で及第した者の強烈なプライドと天子に対する忠誠心がある。果たして今の官僚にこのようなプライドはあるのだろうか。

 

さて、次は磨さんご推奨の「宦官」(三田村泰助:著/中公新書)を読みます。

 

♪本日の一曲♪

Doobie Brothers - China Grove