佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『霧笛荘夜話』(浅田次郎:著/角川文庫)

『霧笛荘夜話』(浅田次郎:著/角川文庫)を読みおえました。

 

 

霧笛荘夜話 新装版 (角川文庫)

霧笛荘夜話 新装版 (角川文庫)

 

 

 

《あらすじ-webKADOKAWAより-》


とある港町、運河のほとりの古アパート「霧笛荘」。かつては、東洋趣味の外国人貿易商の別宅として使われていたらしいその建物には、いかにも異国情緒あふれる不思議な装飾が施されている。
「霧笛荘」には、アパートを管理する纏足の老婆が住んでおり、六つの部屋が用意されている。あなたは老婆に案内されて一つ一つの部屋をめぐり、かつてそこに住んでいた人々の人生の物語を聞かされる。「霧笛荘」の住人はみな、不器用だけれども誠実に、普通とは少し違っていてもそれなりに幸せに生きていたのだが――比類ない優しさに満ちた、切ない感動を呼ぶ七つの物語。


泣かせの浅田、今回もお願いしま~す、ってな調子で読み始めましたが、第一話、第二話と読むうちに、何か変? 泣けませんよこれは・・・。と思ってたら、第三話「朝日のあたる部屋」・・・泣けます。カンカン虫の鉄夫の話です。カンカン虫というのは大型船に付着した貝殻や錆を落とす作業者のことです。私の好きな浅田氏の短編に「月のしずく」というのがあります。その話は30年近くもコンビナートの荷役をしてきた佐藤辰夫という男の話でしたが、辰夫と鉄夫には共通するところがあります。優しくって少しバカな男の人情話、さすがです。浅田氏にこのような男を語らせたらグッと熱いものがこみ上げてきます。いったん涙腺がゆるむと、もうだめです。第四話、第五話と涙腺がゆるみっぱなしです。
霧笛荘の住人は「お金で幸せが買えること」を知ってはいるが、「金なんかいらねえよ」とさらりと言ってのける。自分が金を得るために、人の気持ちを踏みにじるようなことはしない。彼らの矜持だ。